180キロ以上に広がる世界最大の植物が発見される
オーストラリア西海岸中央部で、世界最大の植物が発見された...... Chris Gordon-iStock
<オーストラリア西海岸中央部で、世界最大の植物が発見された......>
ユネスコ(UNESCO)の世界遺産に登録されているオーストラリア西海岸中央部のシャーク湾で、一個体として180キロ以上に広がる海草の一種「ポシドニア・オーストラリス」が見つかった。
これは既知の植物として最大となる。その研究論文が2022年6月1日付の「英国王立協会紀要B」に掲載された。
染色体数が通常の2倍
西オーストラリア大学とフリンダース大学の研究チームは、シャーク湾の海草藻場の遺伝的多様性を調査するべく、2012年と2019年にシャーク湾の計10カ所でポシドニア・オーストラリスの試料144点を採取し、遺伝子マーカー1万8021件を解析した。その結果、1本のポシドニア・オーストラリスから200平方キロに広がるリボン状の海草藻場になっていることがわかった。
この世界最大の植物は「倍数体」(染色体が普通の個体2nの倍数)であることも特徴だ。通常、海草は両親からそれぞれ半分の染色体を受け継ぐ一方、倍数体は両親の全ゲノムを受け継ぐため、染色体数が通常の2倍となる。たとえば、バナナやジャガイモ、セイヨウアブラナなどが倍数体として知られる。倍数体はしばしば極限環境条件で生息し、そのままにしておくと限りなく成長し続ける。
シャーク湾は最終氷期後に海面が上昇した8500年前頃に形成された。塩分濃度が通常の2倍になる場所もあり、年間の海水温は冬の17度から夏の30度まで大きく変動する。海水中の栄養レベルは低く、光量が多い。また、温帯と熱帯の境界に位置するため、極端な気候変動や海洋熱波、サイクロンといった異常気象にもさらされる。
オーストラリア西海岸の過酷な環境に適応
このポシドニア・オーストラリスは、その大きさや成長速度から、推定約4500年前に生まれ、シャーク湾の過酷な環境に適応しながら成長してきたとみられる。最近では、2010年から2011年の夏期にオーストラリア西海岸が未曽有の熱波に見舞われた際、陸上生態系や海洋生態系にも影響が及び、2010年から2014年にかけて1310平方キロの海草藻場が消失した。このポシドニア・オーストラリスも影響を受けたが、自然回復により一部では熱波以前のレベルに戻っている。
通常、環境の変化に適応するためには有性生殖が最適だ。遺伝的多様性を高めることで、環境の変化に対応しやすくなる。しかし、このポシドニア・オーストラリスは、開花するものの、ほとんど結実しない。
研究チームは「シャーク湾の環境に非常によく適した遺伝子を持つため、有性生殖する必要がないのだろう」とし、その要因として「この環境下での持続を助ける少数の体細胞変異(生殖細胞以外の体細胞に起こる突然変異)が起こっているのかもしれない」との仮説を示している。研究チームでは、今後もシャーク湾での研究をすすめ、「この巨大な海草がどのように生き残り、繁栄してきたか」について、解明する方針だ。