歯科予約がイギリスで12ヶ月待ち 接着剤とヤスリの「DIY歯科治療」が問題に
だが、専門家らは横行するDIY治療に警鐘を鳴らす。自己流の対応で失敗したり、感染症にかかったりした場合、より長期の治療が必要になる。イギリス歯科医師会のエディー・クローチ会長は英『i』紙に対し、クラウン(歯のかぶせもの)を瞬間強力接着剤で付け直した人を何人も診てきたと語る。「なかには前後逆につけてしまい、あきらかに収まりがおかしくなり、口を閉じられなくなったという人々もみかけます。」
不公平な診療報酬、NHSに不信感
イギリスではパンデミックを受けて、2020年3月から複数回にわたり大規模なロックダウンを実施した。歯科医はエッセンシャル・ワーカーとして営業を継続することもできたが、それでも一時閉業を決める歯科医院が相次いだことなどで、待機リストの肥大化に至った。
輪をかけて障壁となったのが、かねてから議論のあったNHSの診療報酬制度だ。歯科医院がNHSと契約して治療にあたる場合、長時間を要する治療でも報酬が一律料金となるなど、制度上の不公平が生じている。NHSに対して不信感を抱く歯科医も多く、自費診療のみを受け付ける医院が増えるようになった。
なお、症状が深刻な患者のため、NHSは緊急予約の制度を用意している。だが、受付枠には限界があり、治療を必要とするすべての人々が即座に診察予約を獲得できるわけではない。
歯科医に暴言投げかける患者も
NHSの受け入れ医院が減ったことで、さらに他院も受け入れを停止する負の連鎖が起きた。患者の質が悪化しているためだ。歯痛で何ヶ月も満足に眠れていない患者のなかには、歯科医に対して暴言を吐いたり暴力的な態度に出たりする人々もいるという。
イギリス歯科協会によると、NHSの対応終了に踏み切った歯科医院の数は、昨年だけで実に2000を超える。この道38年の熟練歯科医は『i』紙に対し、NHSの将来に「いっそう悲観的」になっていると吐露した。
イギリス政府は歯科診療費用として、NHSに5000万ポンド(約82億円)の追加予算をすでに投入している。だがイギリス歯科協会は、これでも将来にわたり十分な診療体制を提供するのには十分でないと憂慮している。混乱は今後も尾を引きそうだ。