バイデンがまた「台湾防衛」を明言、今こそ「戦略的曖昧性」を捨てるとき
Away From Strategic Ambiguity?
初来日したバイデンは台湾防衛に関連する発言で物議を醸した JONATHAN ERNSTーREUTERS
<「一つの中国」を「認知」しても「支持」せず、「戦略的曖昧性」をとってきたアメリカ。しかし、習近平が台湾を「必ず取り戻す」と公言している以上、バイデンの「3回目の失言」を機にオープンに議論すべきだ>
もしも中国が台湾を攻撃したら、アメリカにはその防衛に手を貸す用意と意思がある──米大統領ジョー・バイデンは5月23日、東京での記者会見でそう明言し、世界中を驚かせた。まさか、40年来の基本政策を捨てたのか?
事は対中関係の根幹に関わる微妙な問題なのだが、大統領はまたしても、軽率に口を滑らせたのか。あるいは熟慮の末に、新たな方針をさりげなく打ち出したのか。
毎度のことだが、明確な答えはない。計算ずくなのか、よくある失言の1つなのか。この発言がプラスになるのか、マイナスになるのか。いずれにせよ、アメリカと台湾の関係に新たな不確実性の要素が加わったのは確かだ。
会見でこの発言が飛び出したのは、中国が台湾を攻撃する可能性に関する記者の質問に答えたときだ。アメリカの台湾政策には「何の変化もない」とバイデンは言い、日米両国は「そんなこと(中国による台湾侵攻)が起きないよう、他の国々と共に確固として立つ」と答えた。
この質問の流れで、ウクライナでは直接の軍事的関与を除外したが、「台湾でそういう事態になったら、台湾を守るために軍事的関与をする意思があるか」と問われると、バイデンは肯定し、「それがわが国の約束だ」と答えた。
いや、アメリカはそんな約束はしていない。1979年以前にはしていたが、その後に路線を大きく変えた。世界中の大半の国々と同様、台北ではなく北京の政府と正式な外交関係を結び、いわゆる「一つの中国」原則を受け入れ、中華人民共和国を唯一の中国政府と認めた。
一方で米議会は、同じ79年に「台湾関係法」を可決した。そしてアメリカは「台湾に防衛的性格の兵器を提供し」、「台湾の人々の安全保障と社会経済体制を危険にさらすような武力その他の強制力に対抗するアメリカの能力を維持する」と宣言した。
この立場は「戦略的曖昧性」と呼ばれるようになった。「一つの中国」という主張を「認知」はするが「支持」はせず、台湾との外交的・経済的関係も維持するということだ。だから台湾に高度な武器システムを提供し、訓練のために米軍特殊部隊を派遣することもやる。ただし台湾の「国家主権」という問題には触れずにおく。台湾の自衛行為を助けるという約束はするが、アメリカの直接的関与については明言を避ける。