最新記事

航空戦

ロシア空軍が弱いのは何もかも時代遅れだったから

Search WORLD Exclusive: Russia's Air War in Ukraine is a Total Failure, New Data Show

2022年5月26日(木)19時33分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)

アメリカはその後、3年間にわたってタンホア鉄橋を寸断させようと、攻撃を試みたものの、橋は攻撃に持ちこたえた。アメリカの爆撃機が橋を損壊するたびに、北ベトナム側は橋を修復して交通を再開させた。1968年にアメリカが北爆の全面停止を宣言したことで、鉄橋への攻撃も一時停止された。その後、1972年5月に米空軍のF4ファントム戦闘機が第一世代のレーザー誘導弾「ペイブウェイ」26発をタンホア鉄橋に投下し、鉄橋の西側を使えなくした。そして同年10月6日に、最後の攻撃が実行された。4機の米海軍機から発射された誘導ミサイル「ウォールアイ」が、遂に鉄橋を完全に寸断することに成功した。

タンホア鉄橋の空爆は、アメリカにとっての近代戦のはじまりだった。当時のアメリカは、優先標的を破壊するのに十分な精密兵器も爆発規模も持っていなかった。タンホア鉄橋の破壊に苦労した反省から、爆発規模がより大きく、より精密な誘導が可能な複数の兵器が開発された。「一撃必殺」が新たな信念となった。1991年湾岸戦争での「砂漠の嵐作戦」までには、投下される爆弾の7%は精密誘導爆弾となっていた(ベトナム戦争時は1%未満だった)。同年のコソボ紛争における空中戦では、新たな(そして安価な)衛星誘導爆弾が、使用された兵器の35%を占めていた。2003年のイラク戦争までには、投下された爆弾の70%が誘導弾だった。

空軍は補佐役

誘導爆弾と並行して長距離巡航ミサイルの開発も進められ、アメリカはこれらの兵器を好んで使用するようになった(ミサイル1基あたり100万ドル超と効果なために使用は制限されるが)。イラクのサダム・フセイン大統領(当時)を罰する目的で始められたイラク戦争から、旧ユーゴスラビアでの空爆、そして2018年のシリア化学兵器施設に対する攻撃に至るまでの32年間で約2300発の巡航ミサイル「トマホーク」が使用された。

ロシア軍は、今回のウクライナ侵攻開始から85日間で、これとほぼ同じ数(5月23日時点で2275発)のミサイルを使用した。ロシアがウクライナの防空網を突破できない理由が、これらの(やはり高額な)長距離ミサイルに頼っているからなのかどうかは、まだ分からない。

ロシア空軍は地上部隊の補佐役の意味合いが大きく、より大きな戦略目標に資する独自の存在というよりも、各ミッションにおいて現場司令官の支援を行う存在だ。ロシア軍には、戦場の外にある「戦略的」な標的――本部や軍事施設、工業施設、石油・発電関連施設や輸送網――を攻撃する爆撃部隊があるが、そのような標的を確実に破壊するために、大量に使える比較的低コストの兵器(アメリカの衛星誘導弾のようなもの)の開発を行ってこなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB幹部、EUの経済結束呼びかけ 「対トランプ」

ビジネス

ECBの12月利下げ幅巡る議論待つべき=独連銀総裁

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中