最新記事

ドラマ

「信仰心と誠実さ」の暴走は、なぜ24歳の人妻と幼い娘の惨殺に至った? 実録ドラマ

Faith and Murder

2022年5月27日(金)11時10分
ロクシー・サイモンズ

ガーフィールドはユタ州に住むモルモン教徒の刑事に取材し、役作りに役立てた。

「似た体験を持つ刑事に話を聞くことができた」と、彼は言う。「モルモン教に関係するむごたらしい事件の捜査で実際に信仰を試されたというんだ。ジェブをリアルに肉付けする意味で、捜査と信仰のはざまで葛藤した彼の体験談は勉強になった」

ガーフィールドは、傑作『レント』を生んだミュージカル作家であるジョナサン・ラーソンに扮したドラマ『tick, tick...BOOM! :チック、チック...ブーン!』での熱演も記憶に新しい。今回はタイプの違う役柄に挑戦するのが楽しみだったと、彼は言う。

「最近は身も心も丸裸にするようなエモーショナルな役柄、ドラマチックなキャラクターが続いた。だから感情を出さない内向的な人物になれると思うと、わくわくした。

モルモン教徒の刑事ほど、ブロードウェイのミュージカル作家と懸け離れたキャラクターは、そういない。控えめな表現でどれだけ内面を雄弁に伝えられるかチャレンジしたかったし、ジェブの苦悩も演じるかいがあった」

殺人者を演じるうえでの理解と不快感

ロンにはサム・ワーシントン、ダンにはワイアット・ラッセルが扮した。実在の殺人犯を演じるとなると気が重くなりそうだが、ワーシントンはあえて殺人そのものには注目しなかったという。

「暗く邪悪な人間だと決め付けたら、この手の役は演じられない」と、彼は言う。

「ランスと話し合い、ロンのキャラクターにひたむきで誠実な面を見つけようとした。その誠実さが暴走してしまうのだが、僕にとってロンは家族の結束を一心に守ろうとした男だった。そうと決まると、特定の場面の演じ方や雰囲気づくりに選択肢が増えた」

220531p48_nje03.jpg

義兄たちに惨殺されるブレンダをデイジー・エドガージョーンズが演じた MICHELLE FAYE/FX

対照的にラッセルは、ダンを演じた経験を「船酔い」に例える。「船酔いしたみたいに、ずっと気分が悪かった。ダンは人気者だったから、和気あいあいとしたシーンもある。だが彼がしたことを思うと、楽しい気分になるたび胃がむかつき、やましさを覚えた。ああいう人物を演じるのに不快感は付き物だ」

ラッセルは服役中のダン本人に連絡を取ろうとしたが、果たせなかった。「会わないほうがいいかもしれないと思い直した。録音テープで彼の証言は聞いていたし、ダンの人柄に新たな光を当てるような質問も思い付かなかった」

ワーシントンが頼りにしたのは生前のロンを知る人々ではなく、10年かけて『信仰が人を殺すとき』の映像化に取り組んだランス・ブラックだった。「ランスを情報源にした」と、ワーシントンは語る。「彼はモルモン教徒として育ち、モルモン教の人たちに敬意を抱いている。だから宗教について分からないことは彼に尋ねた。それに『アンダー・ザ・バナー・オブ・ヘブン』はランスが10 年温めた企画だ。彼ほどストーリーを熟知し、どう語りたいか理解している人はいないよ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中