「信仰心と誠実さ」の暴走は、なぜ24歳の人妻と幼い娘の惨殺に至った? 実録ドラマ
Faith and Murder
ガーフィールドはユタ州に住むモルモン教徒の刑事に取材し、役作りに役立てた。
「似た体験を持つ刑事に話を聞くことができた」と、彼は言う。「モルモン教に関係するむごたらしい事件の捜査で実際に信仰を試されたというんだ。ジェブをリアルに肉付けする意味で、捜査と信仰のはざまで葛藤した彼の体験談は勉強になった」
ガーフィールドは、傑作『レント』を生んだミュージカル作家であるジョナサン・ラーソンに扮したドラマ『tick, tick...BOOM! :チック、チック...ブーン!』での熱演も記憶に新しい。今回はタイプの違う役柄に挑戦するのが楽しみだったと、彼は言う。
「最近は身も心も丸裸にするようなエモーショナルな役柄、ドラマチックなキャラクターが続いた。だから感情を出さない内向的な人物になれると思うと、わくわくした。
モルモン教徒の刑事ほど、ブロードウェイのミュージカル作家と懸け離れたキャラクターは、そういない。控えめな表現でどれだけ内面を雄弁に伝えられるかチャレンジしたかったし、ジェブの苦悩も演じるかいがあった」
殺人者を演じるうえでの理解と不快感
ロンにはサム・ワーシントン、ダンにはワイアット・ラッセルが扮した。実在の殺人犯を演じるとなると気が重くなりそうだが、ワーシントンはあえて殺人そのものには注目しなかったという。
「暗く邪悪な人間だと決め付けたら、この手の役は演じられない」と、彼は言う。
「ランスと話し合い、ロンのキャラクターにひたむきで誠実な面を見つけようとした。その誠実さが暴走してしまうのだが、僕にとってロンは家族の結束を一心に守ろうとした男だった。そうと決まると、特定の場面の演じ方や雰囲気づくりに選択肢が増えた」
対照的にラッセルは、ダンを演じた経験を「船酔い」に例える。「船酔いしたみたいに、ずっと気分が悪かった。ダンは人気者だったから、和気あいあいとしたシーンもある。だが彼がしたことを思うと、楽しい気分になるたび胃がむかつき、やましさを覚えた。ああいう人物を演じるのに不快感は付き物だ」
ラッセルは服役中のダン本人に連絡を取ろうとしたが、果たせなかった。「会わないほうがいいかもしれないと思い直した。録音テープで彼の証言は聞いていたし、ダンの人柄に新たな光を当てるような質問も思い付かなかった」
ワーシントンが頼りにしたのは生前のロンを知る人々ではなく、10年かけて『信仰が人を殺すとき』の映像化に取り組んだランス・ブラックだった。「ランスを情報源にした」と、ワーシントンは語る。「彼はモルモン教徒として育ち、モルモン教の人たちに敬意を抱いている。だから宗教について分からないことは彼に尋ねた。それに『アンダー・ザ・バナー・オブ・ヘブン』はランスが10 年温めた企画だ。彼ほどストーリーを熟知し、どう語りたいか理解している人はいないよ」