最新記事

ウクライナ戦争

ロシアがアゾフターリに降らせたのは白リン弾か【ファクトチェック】

Fact Check: Does Video Show Russia Use Phosphorus Against Azovstal Plant?

2022年5月19日(木)18時16分
トム・ノートン

ロンドン大学キングズ・カレッジのロシアの防衛政策の専門家、ロブ・リーは製鉄所の動画をツイッターに投稿し、「ロシア軍はアゾフスターリ製鉄所に向けて、グラート自走多連装ロケット砲から9M22Sクラスター焼夷ロケット弾を発射したと報じられている」とツイートした。

兵器関連の調査会社であるアーマメント・リサーチ・サービシーズによると、9M22Sロケット弾は、マグネシウムとテルミット(アルミニウムと酸化鉄の粉を混ぜたもの)を主成分とし、燃料タンクなど可燃性の標的を炎上させるために使用される。同社によれば、白リン弾もこうした攻撃に使えるが、実戦では白リン弾はたいがい標的を照らすか、煙幕を張るのに使われるという。

ローレンスも「白リン特有の煙が見られないことから、マグネシウムとテルミットとも考えられる」と話す。「いずれにせよ、攻撃される側にとっては大した違いはない。どっちが飛んで来ても、おぞましい被害が出る」

また、多連装ロケット砲から発射されたのなら、「確かに動画のような飛び方になる」と、ローレンスは付け加えた。

焼夷兵器のむごさは変わらず

結局のところ、焼夷兵器が使用されたのはほぼ確実だが、白リン弾とは断定できないということだ。それでも、こうした動画が公開されるたびに、憶測が飛び交い、情報や誤情報がメディアを賑わす。

本誌はロシア国防省にもコメントを求めたが、回答は得られていない。

ウクライナとロシア以外の複数の国々の政府関係者は、ロシア軍が白リン弾を使用した可能性を問題にしているが、動画だけでは根拠不十分で、さらなる検証が必要だ。よって本誌のファクトチェックでは、これは事実でも虚偽でもない「要検証」扱いとなる。白リン弾に限らず、焼夷兵器の使用には引き続き国際社会の厳しい監視の目が必要なことは言うまでもない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中