命がけの逃避行...その先でウクライナ難民たちを待っていた「避難生活」の苦難
NO WAY HOME
「キーウでは、服を着たまま、バッグとノートパソコンを抱えて眠りに就いた」と、ファデエワは本誌に語った。「サイレンが鳴ると、隠れ家に行った。パジャマで寝るなんて考えられなかった。リビウに来てからも2週間は、パソコンを抱いて服を着たまま寝た」
いまファデエワは、リビウに拠点を置く財団「アイ・アム・ノット・アローン」のボランティアとして、国内避難民を支援している。政府の援助を受ける国内避難民はリビウだけで約20万人が登録されているが、実際の数はもっと多いだろう。
瓦礫を資材に新しい町を造る
リビウのセルヒイ・キラル副市長は、戦闘が終わっても約5万人が町にとどまると予想する。「国内避難民のための住宅プロジェクトに取り組んでいる。資金調達について政府や支援者に相談しているところだ」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月末、戦闘終結後の「大規模な国家再建」の前段階として、地方自治体に仮設住宅の建設を命じたと語った。「安全が確保されるか、あるいは元の家が再建されるまで安心して過ごすため、さまざまな選択肢が必要だ」と、UNHCRのビリングは言う。「画一的な対策ではうまくいかないし、家を必要としている人はたくさんいる」
リビウにいるファデエワと財団の仲間は、住民が仕事を求めて西欧諸国に渡ったために人口が減った町に注目。過疎化した地域を避難民の住む場所や企業の拠点として提供するため、データベースを構築している。
「まず、自分自身のための安全な場所を確保すべき。でも明日は、自分と家族を養うために金を稼がなければならない」と、ファデエワは言う。「私たちは明日のために、将来のために、確かな保証と持続可能なシステムを提供したい」
ファデエワの財団は、戦闘によって生まれた瓦礫の一部を復興に役立てることも考えている。「こうした資材を使って、新しい町やインフラを造りたい」と、彼女は言う。
戦争の帰結がどうなろうと、ウクライナ人には経済的に苦しい時期が長いこと続くだろう。ウクライナ経済は今年、ほぼ半分に縮小すると予想される。ロシアがウクライナ南部の黒海沿岸部を押さえれば、ウクライナの海運は深刻な打撃を受ける。
商工業が衰えれば、難民は元の場所に戻りにくくなる。「家に帰りたい」と、ファデエワは言う。「でも、ウクライナの経済が戦争前と大きく変わったことは理解している」
それでもファデエワによれば、難民の多く、特に年配の人々は希望を抱いている。「今でも現実を信じられない人は多い。みんな、いい知らせがないかと期待している」と、彼女は語る。「多くの人が家に帰りたいと思っている。そこは、自分のお金を、命を、魂を、投資してきた場所だから」
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