最新記事

新型コロナウイルス

金正恩を襲う「新型コロナ疑い」100万人超と飢饉のジレンマ

North Korea May Be Trapped Between Famine and Plague

2022年5月17日(火)19時09分
アンキット・パンダ(全米科学者連盟フェロー)

国境を封鎖してからの2年4カ月の間、北朝鮮はアメリカや韓国との外交からも距離を置いてきた。この傾向はパンデミック以前からみられるため、2019年2月にハノイで開催された米朝首脳会談が不調に終わったことを受けた戦略的な再調整の意味合いが強いだろう。だがパンデミック期間を通じて北朝鮮政府は、諸外国からの支援にはウイルス汚染のリスクが付き物という考えから、以前にも増して孤立するようになったようだ。

しかし今回、北朝鮮で新型コロナウイルスの感染が拡大したことで、金正恩が外部からの支援を受け入れる可能性は、以前よりも高まっている。北朝鮮は「自立」を掲げながらも、これまでも繰り返し諸外国からの支援の申し出を受け入れてきた。不況を理由に、韓国とアメリカからの支援を受け入れた過去もある。北朝鮮がCOVAXによって割り当てられたアストラゼネカ製のウイルスベクターワクチンを受け入れてこなかったのは、米国製のmRNAワクチンが欲しかったことも一因だ。

韓国の尹錫悦・新大統領は、北朝鮮に対して、必要とあれば新型コロナウイルス関連の支援を惜しまない考えだと述べている。アメリカのジョー・バイデン政権も、ワクチン接種を促進するために、北朝鮮に国境封鎖の解除を促している。過去にはこうした支援の申し出を拒否してきた北朝鮮だが、危機が悪化すれば、その姿勢も変わる可能性がある。

北朝鮮は近く7度目の核実験を行うとみられているし、ミサイル実験も続いているが、それでも米韓両国は新型コロナ対策で積極的に手を差し伸べるべきだ。危機の北朝鮮と付き合う上で守るべき最初の原則は、無実の市民がパンデミックの犠牲になることを最小限に止めるということだ。そうすれば、対話と信頼が生まれ、核やミサイル問題についての交渉を再開する気運も生まれるだろう。

From Foreign Policy Magazine

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中