最新記事

新型コロナウイルス

金正恩を襲う「新型コロナ疑い」100万人超と飢饉のジレンマ

North Korea May Be Trapped Between Famine and Plague

2022年5月17日(火)19時09分
アンキット・パンダ(全米科学者連盟フェロー)

国営メディアが北朝鮮で初の感染確認を報じた数日前には平壌がロックダウンされ、新型コロナの感染拡大が起きていることが強く推察された。感染を認めた後、朝鮮労働党は政治局会議を開き、「最大非常防疫態勢」への移行を決定した。

国営メディアによれば、金正恩はこの会議で「北朝鮮全土の市や郡を徹底して封鎖し、有害なウイルスが広がる空間を完全に遮断する」よう指示した。つまりは全国レベルのロックダウンであり、トップダウン方式の北朝鮮では、それを迅速に実行できるはずだ。しかしあらゆる兆候を見る限り、平壌をはじめとする都市は別として、北朝鮮全土がロックダウンに入った様子はない。

国境地帯で韓国側から望遠鏡で北朝鮮側の様子を見ている複数のジャーナリストによれば、北朝鮮の南部では今も通常どおりの農作業が続けられているという。このことは、ロックダウンの導入について、都市部と郊外に隔たりがある可能性を示唆している。

このことが意味するのは、全土にロックダウンを徹底すればほぼ確実に破壊的な飢饉に陥るという現実なのではないか。5月は北朝鮮にとって田植えが始まるシーズンだ。農業生産高を高めるためには、一般に5月と6月が最も重要とされている。国民の主食となるコメの生産は、大規模な食糧不足を防ぐためには不可欠だ。

「中国にならえ」

国境を封鎖してからの2年4カ月、北朝鮮では農作物の収穫高が思わしくなく、食糧不足が続いている。北朝鮮全土で厳しいロックダウンを導入すれば、国内各地に広まっている「発熱」で命を失う人を減らすことはできるかもしれないが、それによって後々、飢餓や栄養不良で多くの命が失われることになる可能性がある。

オミクロン株/BA.2の流行が拡大し続けた場合、北朝鮮の指導部がどのような措置を取るのかは不透明だ。普段は諸外国の影響を受け入れたがらない北朝鮮の指導部だが、今回は中国の経験を取り入れるよう異例の呼びかけをしている。労働新聞によれば、金正恩は当局者らに対して、中国の「政策や成功事例、経験」を研究して、彼らのアプローチを「積極的に取り入れる」よう指示したという。ここから考えると、金正恩はたとえ大規模な飢餓を引き起こすリスクが高まるとしても、全国ロックダウンによるパンデミック抑制を優先するかもしれない。

北朝鮮が抱える数々の難題に、簡単な解決策はない。2020年の年明けに国境を封鎖して以降、北朝鮮政府は諸外国の支援をすべて拒絶している。ワクチンの公平な分配を目指す国際的枠組み「COVAX」を通じたワクチンの受け取りも繰り返し拒否しており、4月下旬にはCOVAXはついに北朝鮮へのワクチンの割り当てを解除し、ほかの国に再分配する意向を表明した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インドネシア中銀、ルピア圧力緩和へ金利据え置き 2

ビジネス

MS&AD、純利益予想を上方修正 損保子会社の引受

ワールド

アングル:日中対立激化、新たな円安の火種に 利上げ

ビジネス

農林中金の4ー9月期予想上振れ 通期据え置きも「特
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中