ウクライナ電力網、ロシア系統から独立に成功も「崩壊寸然」の新たな危機
エンジニアリング専門誌の『ジニアズ・ナウ』は、「本措置により、ロシアがウクライナの発電インフラの破壊を続けたとしても、(欧州からの)受電によってウクライナ電力網の維持が可能となる」と評価している。
副次的な効果として独シンクタンクのアナリストは、電力を購入することでウクライナ国内の火力発電の運転を抑制し、貴重な燃料を節約する効果を見込んでいる。
停止できないインフラ事業 採算性が課題に
こうしてロシア系統からの切り離し後も耐えているウクライナ電力網だが、国内電力消費が落ち込むなか、採算性という新たな壁に突き当たっている。侵攻による電力消費の低迷を受け、電力3大公社の収入は60%減という壊滅的な数字を記録した。
欧州政策分析センター(CEPA)は、「ウクライナの電力網は財政面で崩壊が近い」とみる。数百万人という規模の難民が国外へ移動し、電力消費は家庭用・産業用ともに35%ほど低下した。さらに国民の被災により電力料金の支払いが滞ったことで、3月期の収入は60%減となっている。
CEPAは、「需要も収益も強烈に低下しているにもかかわらず、公共サービスは提供を続けなければならないのだ」「目前に迫った問題がある。ウクライナの複数の発電所(発電事業者)はまもなく、運転継続に必要な資金が不足するだろう」と警鐘を鳴らす。
事態を受けウクライナ・エネルギー省は、米エネルギー省などに宛てて緊急融資を依頼した。また、国際社会からの資金援助の受け皿となる基金を発足させている。このほか、戦時中の一時措置として発電事業を政府直営とする案も浮上しているが、国営化には慎重論も根強い。
欧州側が受け入れるならば、接続に成功したENTSO-E送電網を経由し、難民の発生で余剰となった国内電力を欧州に売電する選択肢もあるだろう。しかし、そもそも接続が長年ためらわれていた背景には、ウクライナの安価な電力の流入を警戒する意図があった。非常時とはいえ、売電を欧州側が許容するかは不透明だ。
アイランド・モードへの移行とENTSO-Eへの緊急接続を経て、ウクライナ電力網は技術上の課題を続々とクリアしてきた。しかし、ここへきて経済事情が深刻な課題となってきているようだ。