ウクライナ電力網、ロシア系統から独立に成功も「崩壊寸然」の新たな危機
ウクライナの電力網が危機に瀕している...... REUTERS/Gleb Garanich
<侵攻による数々の被害を乗り越えてきたウクライナの電力網。しかし、新たな課題が発電各社に迫る>
ロシアによる侵攻以来、ウクライナ電力供給網は幾度となく危機を乗り越えてきた。だが、欧州政策分析センター(CEPA)はウクライナの発電事業各社が「財政面で崩壊が近い」と警告し、事業の継続性に危機感を示す。大量の難民発生による電力消費の落ち込みを受け、収入は3月の最悪期で約60%の低下を記録した。
同地での電力事情は、綱渡りの連続だった。2月の侵攻当時、電力網はロシアの電力網から独立して動作可能な「アイランド・モード」を72時間の予定で試験運用していたが、これを急遽延長して対ロシアの独立性を確保した。
ウクライナは独自の発電所を擁する。しかし、西部ブルシュティンの一帯を除き、送電網ほぼ全体として長年、ロシア系統への接続を前提とする運用となっていた。近年ロシアからの電力購入は行なっていないが、もともとベラルーシとともにロシアの送電系統に属していたことから、歴史的にこのような形態が残っている。
本来72時間で終了するはずだったアイランド・モードのテストだが、侵攻を受けて長期化することとなる。その後、ロシア軍による一部発電所の占拠や破壊などで発電能力が低下する局面もあったが、南側に隣接するモルドバから電力を融通しながら急場を凌いだ。
エネルギーにまつわるロシア依存は、もはや明確なリスクだ。ウクライナ太陽発電協会の会長でありエネルギー移行連合の会員でもあるアルテム・セミニシン氏は米WIRED誌に対し、「ロシアの電力網に戻ることは今後一切ないでしょう」と語る。
欧州系統への緊急接続に成功
侵攻による電力危機は、結果としてウクライナの脱ロシア化を加速し、欧州電力網への接続を早める効果を生んだ。
発電能力の不足により需給バランスが崩れると、周波数を保てなくなり、大規模な停電を招くおそれがある。そこで安定した電力を確保すべく、侵攻の翌3月には欧州送電網への緊急接続を試み、見事成功させている。
ロイターによるとこの試験接続は本来、機器の導入と試験に1年以上を要すると見積もられていた。接続先の送電網は欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)と呼ばれ、欧州35ヶ国に位置する39の送電業者が加盟する大規模なものだ。
実現の布石となったのが、前述のアイランド・モードだ。侵攻直前から行われていたこのテストにより、ウクライナが平時であれば単独で需給バランスを満たせることが証明され、欧州電力網への接続要件の一部を満たした。さらに、本来よりも手順を簡略化したテストを追加で実施し、3月中旬にENTSO-Eへの緊急接続を果たしている。
ロシア依存を軽減しENTSO-Eを頼るこの計画は、2014年のクリミア危機後に浮上していた。しかし、技術的な課題をクリアしてなお、政治問題が実現の壁として立ちはだかっていた。侵攻という非常事態を受け、この課題が一挙に取り払われた格好だ。