ウクライナの文化遺産をロシアから守れ 奮闘するオンライン部隊
ウクライナの首都・キーウ(キエフ)に空襲警報が鳴り響いた今年2月下旬、国の民芸品を収蔵する「イワン・ゴンチャー博物館」では何人かのスタッフが、比較的安全な防空壕を出て職場に戻り、作品のデジタルコピーのバックアップ(複製・保存)を取ることを決断した。写真はキーウ(キエフ)近郊のボロディアンカで7日撮影(2022年 ロイター/Zohra Bensemra)
ウクライナの首都・キーウ(キエフ)に空襲警報が鳴り響いた今年2月下旬、国の民芸品を収蔵する「イワン・ゴンチャー博物館」では何人かのスタッフが、比較的安全な防空壕を出て職場に戻り、作品のデジタルコピーのバックアップ(複製・保存)を取ることを決断した。
ロシアのプーチン大統領はウクライナに侵攻する数日前に、同国は人工的に造られた国だと言い放った。博物館のスタッフにとってこの発言は、自分たちが一生を捧げて記録してきたウクライナ独特の文化に対する脅しに映った。
ミロスラワ・ウェルチュク副館長は、トムソン・ロイター財団の電話取材に「私たちにはこの文化を守る大きな責任があった」と話した。イワン・ゴンチャー博物館は民俗資料を収集し、絵画や衣服、楽器なども集めている。「コレクションが損傷したり破壊されたりしても、再構築できるようにしたかった」という。
スタッフは作品救出のため、展示品のデジタルコピーや民族音楽の録音など無形資産をクラウドデータベースにアップロードした。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて米インディアナ大学に拠点を置く非営利組織、アメリカ民俗学会(AFS)が、ウクライナの文化遺産を守る幅広い草の根活動の一環として、データのバックアップを保存するクラウドストレージの利用環境を整えた。
ロシアの爆撃が始まったときにAFSは、野外での録音、インタビュー、写真、資料などを持っていそうな研究者や専門家、博物館、個人収集家に連絡を取り、支援を申し出た。
AFSのエグゼクティブディレクター、ジェシカ・ターナー氏は「私たちが取り組んでいるのは、クラウドストレージのリンクを個別に提供し、データのバックアップを可能にすることだ」と話した。「私たちはこうしたデータを保管し、(ウイルスが)除去され、安全であることを確認し、ウクライナの人々が再び必要になった際には用意することができる」
デジタル司書
ウクライナ侵攻の開始以来、世界中で何百人にも上る歴史専門家、図書館員、IT専門家がオンライン部隊を結成し、建物やサーバーが打撃を受ける前に、ウェブサイトから図書館の資料まであらゆるもののバックアップを取るために協力している。
ツイッターを通じて知り合った欧米の研究者3人が立ち上げたプロジェクト「ウクライナ文化遺産救済オンライン(SUCHO)」は約1200人のボランティアの協力を得て、危機に瀕したウェブサイトやデジタルコンテンツのアーカイブ化を進めている。
SUCHOの共同設立者である米スタンフォード大学のクイン・ドンブロウスキー氏は「私たちは公開されているウェブサイトが、利用不可能になる前に捕捉しようとしている」と述べた。
こうしたウェブサイトをアーカイブ化すればコピーが生成され、今も運営が続いているかのように閲覧することができるという。