最新記事

選挙

疲弊する経済、かすむ原発是非の議論 29日投開票の新潟知事選

2022年5月28日(土)11時51分

柏崎市で産業機材の卸などを営む石坂泰男さん(57)は「原発が動かないことによって、定期検査など常に回っている仕事がなくなっている。7基どれかが定期検査していれば当然どこかで仕事がある」として早期の再稼働を切望する。

原発再稼働反対派の星野幸彦・柏崎市議(58)は「ロシアによるウクライナの原発攻撃は推進派も衝撃だったのではないか」と指摘する。しかし「つなげよう脱原発の輪 上越の会」代表の植木史将さん(47)は「ウクライナ問題で原発反対論が盛り上がっているはずだと反対派の人たちは言うが、私の予想を超えて原発反対の世論は下がっている」といい、「住民は良くも悪くも関心がないという感覚」と話す。

総出力で世界最大級の柏崎刈羽原発では昨年テロ対策の不備が発覚。原子力規制委員会は今年1月、東電側に原因究明の再検証を求めるなど、運営体制が疑問視されており、現時点で再稼働のメドは立っていない。

現職の花角氏は原発再稼働を争点として前面に打ち出していない。自民党新潟県連の小野峯生幹事長は「柏崎刈羽については、(花角)知事も(テロ対策不備で)東電に厳しい態度を取っており、(再稼働が)近づくという認識は私は持っていない」と話し、花角知事が再選しても「再稼働はまだ白紙状態」と明言する。

原発再稼働、加速への思惑

一方、政治の中枢、永田町では違った風景がみえてくる。今回の知事選の結果を全国の原発再稼働につなげたい、との思惑だ。

自民党の電力安定供給推進議連(会長・細田博之衆院議長)は原発再稼働の加速を提唱しており、全国の原発再稼働前倒しの契機にしたい考え。同議連幹部は「再稼働反対派の前・元知事(米山隆一氏や泉田裕彦氏)と花角さんは異なる」として、柏崎刈羽原発の再稼働に期待しており、日本全国の原発についても「動かさないといけない」と強調する。

11年の東日本大震災による東電福島第1原発事故により停止した全国の原発で現在稼働しているのは定期点検中のものを含め10基のみ。停止中の原発で最も早く再稼働が見込まれている島根原発2号機では、島根県議会が26日再稼働に正式に同意したものの、安全対策に必要な工事は完了しておらず、中国電力は再稼働を23年度以降としている。

自民党内では、ロシアのウクライナ侵攻を受け、「ロシア(サハリン2)から輸入している液化天然ガス(LNG)の代わりに、米シェールが(価格高騰などの)競争で入手が困難なときに、原発再稼働で賄うべきとの意見が増えている」(幹部)。

岸田文雄首相は今月5日、英国での講演で「既存の原発1基が再稼働すれば、年間100万トンのLNGを世界市場に新規に供給するのと同じ効果がある」と述べ、原発再稼働への意欲を示唆した。現時点で政府側から再稼働を加速するとの議論はないが、「参院選後に本格的に検討する」(与党関係者)との見方が多い。

(竹本能文、小宮貫太郎、久保信博 取材協力:杉山健太郎 グラフィック作成:照井裕子 編集:橋本浩)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・外国人同士が「目配せ」する、日本人には言いづらい「本音」
・中国人富裕層が感じる「日本の観光業」への本音 コロナ禍の今、彼らは何を思うのか
・日本のコロナ療養が羨ましい!無料で大量の食料支援に感動の声
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領「中国との合意望む」、貿易戦争終結

ワールド

米ロ、2回目の外交協議 「使節の活動正常化に向け進

ワールド

米・ベトナム、互恵的貿易の公式協議開始で合意=米財

ワールド

日英首脳が電話会談、貿易障壁低減の必要性などで一致
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 10
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中