最新記事

異常気象

酷暑に苦しむインド 冷房設備・電力不足が14億国民にのしかかる

2022年5月31日(火)10時24分
橋の下の日陰で昼寝をする人びと

商品の果物を積んだカートに、焼けつくような陽光が襲いかかる。モハマド・イクラルさん(38)は、また今日も傷んだマンゴーやメロンを何十個も廃棄することになるのでは、と気を揉んでいた。写真は2日、ニューデリーで、橋の下の日陰で睡眠をとる人々(2022年 ロイター/Adnan Abidi)

商品の果物を積んだカートに、焼けつくような陽光が襲いかかる。モハマド・イクラルさん(38)は、また今日も傷んだマンゴーやメロンを何十個も廃棄することになるのでは、と気を揉んでいた。前代未聞の熱波に襲われている今月のインドでは、そんなことも日常茶飯事だ。

イクラルさんは冷蔵庫を持っていないため、果物はすぐだめになってしまう。1日の終わりに売れ残った果物があれば、そこらを歩く野良牛の餌にするくらいが関の山だ。

4月以来、損失は週3000ルピー(約4900円)にも達している、とイクラルさん。毎週の平均収入の半分近い額だ。

「この猛暑は拷問だ。でも、いつかエアコンや冷蔵庫を買いたいので、商売をやめるわけにはいかない」

摂氏44度の暑さの中、日光を遮るため長袖シャツを着て、頭部に白い布を巻いたイクラルさんは語った。

23日の朝早く、ニューデリー一帯に降った激しい雷雨のおかげで、焼けつくような気温は約20度まで下がった。民間気象予報機関スカイメットでバイスプレジデントを務めるマヘシュ・パラワット氏は、「しばらくは」この地域に熱波が再来することはないだろうとSNSに投稿した。

しかし、インド気象庁によれば、気温は再び上昇し始め、週末には40度前後にまで上がるという。

23日の嵐は、首都の大部分で停電を引き起こした。この夏、イクラルさんにとってはすでに慣れっこになったトラブルである。

イクラルさんは家族とともにニューデリーの衛星都市ノイダにあるワンルームの家で暮らしているが、昼夜を問わず何時間も停電に見舞われ、天井の扇風機は役立たずになってしまっている。

3人の子どもたちは、エアコンがあり、猛暑を逃れられる学校に通わせている。

「昼と言わず夜と言わず、ずっと汗をかきっぱなしだ。暑さをやり過ごす良策は無い。この暑さは、8年前にこちらに引っ越してきて以来初めてだ」

イクラルさんの例は、広い範囲で停電が発生する中、涼をとる手段のないインド人が直面する脅威の一端を示している。

インド全土では、猛暑と扇風機や冷蔵庫など冷却機器の不足により、約3億2300万人が高いリスクにさらされている。国連が支援する組織SE4ALL(万人のための持続可能なエネルギー)が先週発表したリポートで明らかになった。

インドを筆頭とする「危機的な」国のリストには、中国、インドネシア、パキスタンといった国が挙げられている。これら諸国は、熱中症を直接的な原因とする死亡から、食料安全保障や所得への影響に至るまで、暑熱由来の危険に直面する人口が最も多い国々だ。

ニューデリー地域の気温は5月半ばに一部地域で摂氏49度以上にまで上昇した。インドは過去122年で最も暑い3月を経て、4月にも尋常ならぬ暑さに見舞われている。

6月になればモンスーンによる降雨の到来で、気温は低下すると予想されている。

憂慮すべきヒートアイランド現象

エアコン使用の急増によりインドの電力需要は過去最高を記録し、ここ6年以上で最悪の電力危機を招いた。

だが、イクラルさんの例に見るように、誰もが暑さに対処できるわけではない。

SE4ALLによれば、インドのほぼすべての家庭では電気を利用できるが、何らかの冷房機器を所有しているのは、14億の人口のごく一部にすぎない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中