最新記事

軍事

ウクライナのどさくさに紛れて「侵攻」を狙う、もうひとつの旧ソ連の国

THE OTHER EX-SOVIET HOTSPOT

2022年5月11日(水)17時06分
トム・オコナー(本誌中東担当)

一方で、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領がロシアとウクライナの仲介役を務めようとしていることは、緊張しているが複雑なトルコとロシアの関係に新たな要素を加えている。

トルコはNATO加盟国だ。アメリカが主導するNATOはウクライナに武器を提供し、ロシアに対して世界的な制裁を強化している。ジョー・バイデン米大統領はロシアの侵攻開始から1カ月後の3月下旬にNATO緊急首脳会議とEU首脳会議に出席し、ウクライナ侵攻とその人道的な影響について対応を協議した。

ウクライナの危機は、世界のどこでも国家間の緊張が過熱すれば破滅に向かうことを浮き彫りにしたと、バルダニャンは警鐘を鳴らす。

「戦争は大惨事だ。地域を破壊し、時には国全体を破壊して、地域や世界全体を不安定にする。特に(国や地域の間に)密接な結び付きがある場合、危機は多くの人々に直接、影響を与える。その最たる例が今、ウクライナで起きている」

「世界は安定と予測可能性を必要としている」と、バルダニャンは言う。「ただし、正義に基づく安定と平和でなければならない」

今回、アゼルバイジャンとアルメニアは互いに相手が先に停戦合意を破ったと非難している。在米アゼルバイジャン大使館は本誌に次のように述べた。

「不安定化の懸念は三重の脅威から生まれている。アルメニア軍は(3国間協定で義務付けられているのに)撤退しない。一部の過激派で報復主義が台頭し、アゼルバイジャンへの武力侵略を公然と主張している。アルメニアの多くの政治・軍事組織は、外部の力を味方に付けようとしている」

領土問題を超えた文明の戦い

ここでもまた、ウクライナの紛争と周辺の地政学が絡み合っている。「アルメニアや、ロシアの平和維持部隊が展開している『(アゼルバイジャン側が主張する)アゼルバイジャン領内』でこれらの組織が反ウクライナのデモを行っていることは、そうした感情の表れだ」とも同大使館は述べている。

アルメニアとアゼルバイジャンの不安定な状況に対し、アメリカはバランスの取れた役割を果たそうとしている。米国務省のネッド・プライス報道官は記者団に、アメリカは「双方に自制を求め、あらゆる未解決の問題の包括的な解決策を見つけるために外交的な関与を強化していく」と説明した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏当局、ディープシークに質問へ プライバシー保護巡

ビジネス

ECB総裁、チェコ中銀の「外貨準備にビットコイン」

ビジネス

米マスターカード、第4四半期利益が予想上回る 年末

ワールド

米首都近郊の旅客機と軍ヘリの空中衝突、空域運用の課
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 4
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 5
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 10
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中