ウクライナのどさくさに紛れて「侵攻」を狙う、もうひとつの旧ソ連の国
THE OTHER EX-SOVIET HOTSPOT
本誌の要請で在米アゼルバイジャン大使館が公開した同国国防省の声明は「違法な分離独立派の武装集団のメンバーがわが国の陸軍部隊に妨害工作を行おうとしたが、(わが軍の反撃に遭い)撤退を余儀なくされた」と述べている。
またこの声明は、ロシアの発表はアルメニア側に肩入れしたもので「事実を反映していない」と主張。アルメニア軍は今もアゼルバイジャン領内に居座っており、「停戦協定に違反しているのはわが軍ではなくアルメニアのほうだ」と断定している。
3月の衝突は小競り合い程度で終わったが、多くのアルメニア人はこの程度では済まないとみている。「ウクライナ危機と同時期に衝突が起きたのはただの偶然ではない」と、アルメニアの国会議員、クリスティン・バルダニャンは言う。
アゼルバイジャンはロシア軍がウクライナ侵攻に手間取っている今を好機とみて「武力でアルツァフからアルメニア人を追い出し、アルメニア人が父祖の地で暮らす権利を奪おうとしている」と言うのだ。
「トルコも重要なプレーヤー」
バルダニャンによれば、アゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフに住むアルメニア系住民にさまざまな嫌がらせをし、最近では生活インフラまで断ち切っているという。
「ナゴルノ・カラバフにいる約12万人の住民は日々テロまがいの嫌がらせを受けている上、今ではガスも電気もインターネットも使えない。民間人もしばしば銃撃され、家から出て行け、さもなければ武力で家を占拠するぞと脅されている」
この紛争にはもう1つ重要なプレーヤーが絡んでいると、バルダニャンは指摘する。アルメニアはロシア主導の軍事同盟・集団安全保障条約機構(CSTO)に加盟しているが、アゼルバイジャンが頼りにしているのはトルコで、政治、文化、軍事的に密接な関係を保っているという。
バルダニャンによれば、ウクライナ軍が対ロ攻撃に使用しているトルコ製の滞空型無人戦闘機バイラクタルTB2は、アルメニア軍の陣地に対するアゼルバイジャンの攻撃にも使われ、威力を発揮している。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナへの攻撃を開始する2日前の2月22日に、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領と会談して「同盟的協力宣言」に署名した。安全保障や軍事、政治分野での協力を強化して、両国の関係を新たな「同盟」に格上げしようとしている。