最新記事

ウクライナ戦争

【河東哲夫×小泉悠】いま注目は「春の徴兵」、ロシア「失敗」の戦略的・世界観的要因を読み解く

2022年4月28日(木)15時25分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
河東哲夫、小泉悠

外交評論家の河東哲夫氏(左)と、ロシアの軍事と安全保障戦略を専門とする東京大学専任講師の小泉悠氏(右)が議論を交わした Courtesy Tetsuo Kawato (LEFT): Courtesy Yu Koizumi (RIGHT)

<ロシアは前半でなぜ負けたか、何を見誤ったのか。国内の情報統制、今後の情勢は? 『日本がウクライナになる日』著者・河東氏とロシアの軍事と安全保障戦略を専門とする小泉氏が議論を交わした>

混迷するウクライナ情勢をどう見たらよいのか。

外交官としてソ連・ロシアに12年間駐在した経験があり、『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)を緊急出版した外交評論家の河東哲夫氏と、ロシアの軍事と安全保障戦略を専門とする東京大学専任講師の小泉悠氏が対談し、今後の情勢について議論を交わした。

(※この記事は対談前編。後編はこちら:【河東哲夫×小泉悠】米欧の本音は「支援したくなかった」、戦争の長期的影響と日本が取るべき立場

(※対談は4月17日に行われた)

◇ ◇ ◇

――ロシアの侵攻は、専門家の間でも想像していない人が多かった?

■小泉 ロシアのことをよく知っている人ほど、予想を裏切られたと思う。今のところ、プーチンが戦争を始めて得をした点がない。国際的には孤立し、フィンランドとスウェーデンはNATOに加入すると言いだしている。旧ソ連の国々も、EU加盟プロセスに弾みがついた。国内経済は混乱し、オリガルヒ(新興財閥)との関係も緊張している。

何一つ得をしないだろうだから、ウクライナとの国境付近に軍隊を集めているけどこれはハッタリに過ぎないだろうと、真摯にロシアを見ている人ほど思っていた。

他方、軍事専門家の間では、集まり方が尋常でないと見られていた。従来もロシア軍が大演習として国境周辺に集まることはあったが、1~2カ月で戻っていた。今回は極東からも大量の部隊が運ばれ、サハリンやウラジオストクを管轄する「東部軍管区」の司令部が丸ごと引っ越してきた。

そしてロシアの政治指導部からは「NATOは東方拡大するな」とか、「ウクライナはロシアの勢力圏に入れ」といった強い政治的発言も出てきた。ただの脅しかもしれないが、従来見たことのないことをやっているという危機感を軍事専門家たちは抱いていた。

河東氏×小泉氏の対談はYouTubeでフルバージョンを公開しています(こちらは全3回の前編) Newsweek Japan


戦争の前提となるウクライナ観が間違っていた

――ロシアは軍事的に強い国というイメージがあったが、前半で負けたのはなぜ? 戦略的な失敗は?

■河東 プーチンは馬鹿じゃないから侵攻はしないと思っていた。仮に侵攻しても、どうやって停戦し結果を守るかと考えると、シミュレーションしても分からなかった。

2月24日の侵攻当初は10万人ぐらいの兵力で、陸上はベラルーシ、ハリコフ、ドネツクの三方から分けて侵入した。一方、ウクライナ軍は今回26万人の兵がいる。ロシア軍はウクライナの国道を一列渋滞で整然と入ってくるから、ものすごく脆い。1台をやられたら、その車列が止まってしまう。

ロシアはウクライナ軍が体制を固めていたと予想できておらず、単純に舐めていた。ウクライナ軍は欧米諸国から兵器をもらっていて、ジャヴェリンという戦車をやっつける、筒花火のように一人で撃てるミサイルもある。それらによって600以上の戦車がやられたと言われている。

ロシアが保有する2400両の戦車のうち、600を失った。欧州正面の戦車は、すでに3分の1ぐらいを失ったのではないか。ロシアは当面、通常の戦術を欧州正面では取れないのではないかと思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中