最新記事

ウクライナ戦争

【河東哲夫×小泉悠】いま注目は「春の徴兵」、ロシア「失敗」の戦略的・世界観的要因を読み解く

2022年4月28日(木)15時25分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

■小泉 プーチンはウクライナ人のナショナリズムを理解していなかったと思う。河東先生の『日本がウクライナになる日』には「宣戦の雄叫び」とあったが、プーチンはロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について、認識が誤っていた。

プーチンはロシア人とウクライナ人は一体だと言っているが、両者は平等ではなく、ウクライナ人はロシアの一部であるという世界観に貫かれている。だから軍事侵攻してもウクライナ人は反発しないだろう、ゼレンスキー政権を支持しないだろうという勝手な思い込みがあった。

それで兵力を分散したのではないか。軍事作戦が政治思想に引っ張られた結果、非常に手際が悪くなった印象がある。

ウクライナは軍改革を進めて軍事力が強化されていたし、西側から大量の軍事援助が入っていて、開戦後にはそれが何倍にも跳ね上がった。アメリカは相当回数の援助をしていて、本当にポーランドまで戦略輸送機で運んでくる。この機動力と財力が大きい。

通信についても、アメリカの助力がかなりあると思う。ロシア軍の通信システムや戦場ネットワークシステムは、米軍が遠距離から妨害している可能性が考えられる。それでロシア側は個人の携帯やトランシーバーを使わざるを得なくなった。

こうした下手くそな戦争を3月末に切り上げ、その後はウクライナ東部に戦力を集中すると大転換を図った。3つの軍管区が関与しているが、その上に立つ現場総司令官も任命することになった。ようやく軍が政府に対して距離を取り、体制を立て直したように見える。

――今回の戦争は正規戦や情報戦が組み合わさった「ハイブリッド戦争」と言われているが、ロシアの上層部は何を見誤ったのか?

■小泉 プーチンの思惑としては、ウクライナを征服すると言っては言い過ぎだが、ウクライナでの影響力を回復したかったのだろう。その際に軍事力を使いたいけど、手ひどくやると戦後の統治に困難をきたすと思ったのではないか。

最初は最小限の軍事使用を目指して初日にキエフにヘリ部隊が入り、1~2日でキエフを占拠することを夢見ていたのではないか。それはプーチンの世界観に振り回された作戦でもあった。

だが、ロシア軍が入ってもウクライナ人は降伏せず抵抗するし、国民もゼレンスキー大統領を見離さず結束した。その後、ロシアは大軍を投入したが1カ月続けても降伏しなかった。

戦争の前提となるウクライナ観が間違っていたのではないか。ウクライナは固有の言語とナショナリズムを持っていることを、プーチンが無視した結果だろう。

ロシア人とウクライナ人がよく似ていることは間違いないし、ロシアとウクライナは特別な関係で簡単に線を引けないという意識も確かにある。それは両国の間で共有されていた。だが、2014年のクリミア併合と今回の戦争によって、せっかく共有していたそうした感覚を決定的に損ねてしまったと思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EUが排ガス規制の猶予期間延長、今年いっぱいを3年

ビジネス

スペースX、ベトナムにスターリンク拠点計画=関係者

ビジネス

独メルセデス、安価モデルの米市場撤退検討との報道を

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中