香港の次期トップに「強硬派」を選んだ中国政府、狙いは「裏目」に出る可能性大
治安対策を期待されて行政長官に就任する見通しの李家超だが…… LAM YIKーPOOL/GETTY IMAGES
<5月8日に予定される香港行政長官選挙に、中国政府は警察出身の李家超の立候補しか認めない見通し。治安対策を最優先させたいとの思惑が浮き彫りに>
5月8日の香港行政長官選挙に、李家超(ジョン・リー)元政務官の立候補が確実になった。
警察組織でキャリアを積んだ李が行政官に転じたのは2012年。政府では治安対策を担い、民主派に対して強硬な姿勢で知られてきた。21年からは林鄭月蛾(キャリー・ラム)現行政長官の下で香港政府ナンバー2の政務官を務め、今月6日に辞任した。
香港で警察出身者が政務官の要職に就いたのは、李が初めてだった。行政長官に就任すれば、やはり警察出身者として史上初になる。
李が行政長官に就任することはほぼ確実だ。行政長官選は、選挙委員の投票によって行われる。しかし昨年施行された新しい選挙制度の下、1500人の選挙委員は、当局が「愛国者」と認定した親中派でほぼ占められている。
過去の行政長官選挙では、自由な選挙という体裁を取るために、中国政府は形ばかりにせよ複数の候補者による選挙を許してきた。しかし地元メディアによれば、5月の行政長官選挙では1人の候補者、つまり李の立候補しか認めない意向らしい。
行政経験が乏しい警察出身者の李を次期行政長官に選んだことは、香港市民の暮らしや香港の経済よりも、治安維持を優先させる中国政府の姿勢を浮き彫りにしている。
共産党にとって林鄭長官は物足りなかった?
現行政長官の林鄭も中国政府の指示に忠実に従い、治安対策に力を注いできたが、共産党指導部にとっては物足りなかったらしい(新型コロナウイルスのオミクロン株対策の不手際も林鄭の失点になった)。李に比べれば穏健なイメージがあり、経済分野の経験が豊富な陳茂波(ポール・チャン)財政長官などの名前も候補として下馬評に上がっていたが、中国政府が選んだのは行政手腕よりも治安対策の実績だった。
もっとも、李を行政長官に据える選択は裏目に出かねない。中国政府は最近、自らの首を絞めるような決定を下すことが増えている。極度の不安により治安維持と国家統制を徹底しようとするあまり、数々の副作用を無視して度を越した強硬な措置を実行するケースが多いのだ。
それは、香港に関する政策だけで見られる傾向ではない。景気後退の長期化や失業の増加などの弊害があっても、上海のロックダウン(都市封鎖)に象徴されるような徹底したゼロコロナ政策を実行したり、テクノロジー業界、教育業界、不動産業界への締め付けを強めたりしている。