東部・南部の本格攻勢を経て、ロシアはキーウ制圧に戻ってくる
New Russian Offensives?
黒海やアゾフ海に面した港を奪われたら、ウクライナは石油の輸入にも国産小麦の輸出にも困る。既にロシア軍は東部ベルジャンスクと南部ヘルソンの港を制圧している。
さらに南部では、クリミア半島から東進した部隊がその他の前線地域より大きな戦果を上げている。これで壊滅寸前のマリウポリを落とせば、クリミア半島からロシア本土までが陸路でつながる。
しかしまだ南西部にある国内最大の港湾都市オデーサ(オデッサ)は陥落していない。オデーサの手前にあるミコライウの町もロシア軍の手に落ちていない。
侵攻からの約1カ月で、ロシア軍が最も戦果を上げたのは南部戦線だ。しかしウクライナを縦断するドニプロ(ドニエプル)川を越えては進軍できていない。しかも最近はウクライナ側が反撃し、領土の一部を取り戻している。
前出のリジェンコは、今後のロシア軍は南部戦線に注力するだろうとみる。「とにかくロシア側は南部の支配権を確立したい。そうすればクリミア半島とロシア本土を陸路でつなげるからだ」
ハーラも同じ見方で、プーチン政権は今も黒海に面した海岸線の全てを手に入れるつもりだと言う。
元ウクライナ国防相のザゴロドニュクによれば、今のロシア軍は苦戦続きで疲弊しており、休息を必要としている。「ロシア軍はひどい損失を被った。兵士の士気も著しく低下している。だから休息と物資の補給が必要だ。しかし、それが済めば彼らは必要な場所に戻ってくる」
そうであれば、首都キーウもまだ安心できない。ハーラによれば、「私の知る限り、ロシア軍は首都の北西と北東からは撤収したが、北には残っているようだ」。
キーウは北のベラルーシ国境から80キロほどしか離れていない。だからロシアは北からキーウに圧力をかけ続け、和平交渉の場で優位に立とうと考えている。リジェンコも、ひとたびロシアが東部ドンバス地方と南の沿岸部を制圧すれば、次は再び首都に攻勢をかけるだろうと警告する。占領はできなくても、交渉の材料にはできるからだ。
頼みの綱は中国とインド
今回の侵攻でロシアは深い痛手を負った。ウクライナ側の発表では、既にロシアは1万7500人以上の兵士を失っている。米国防総省の推定でも、ロシア軍の死者は7000から1万5000人の間とされる(もちろんロシア側の発表する数字はもっと少ない)。しかも周辺諸国の反ロシア感情は高まる一方で、ウクライナだけでなく、ジョージアやモルドバもEUへの加盟を申請している。