BTSの音楽がアメリカ人に受けている理由(評:大江千里)
THE LIGHT AND DARK
「Dynamite」で名実共に世界的アーティストに(2020年11月、アメリカン・ミュージック・アワード) BIG HIT ENTERTAINMENTーAMA2020/GETTY IMAGES
<「同じアジア人として」どう聴いたか。音楽評論をするアメリカ人の友人はどうみているか。2022年グラミー賞にシングル「Butter」がノミネートされているが(発表は日本時間4月4日)、彼らはどこに向かっているのか> ※本誌4月5日(火)発売号は「BTSが愛される理由」特集です(アマゾン予約はこちら)
BTS の「Dynamite」を聴き「これは自分で歌うとなると難しいぞ」と思った。
サビの出だしがちょっとトリッキーな音から始まり、4つ打ちと言われるディスコビートに一拍ずつ音を乗せて下がっていく。そのノリで男性の声にしてはかなり高いキー、裏声と地声を頻繁に行ったり来たりしなければいけない。
だが実際の彼らはなんだか楽しそうに、楽に歌っているふうに聞こえる。このサビのフレーズは誰かにつぶやくように始まったのかもしれないと、ふと思った。大事な友達がインスタグラムのストーリーに載っけたメッセージ、24時間で消えちゃうみたいな儚いもの。
しかし今どきのSNSは世界へオープンだから、あちこちに共感する仲間が増えていく。「いいね!」の小さな声はやがて大きなクラップ(手拍子) へ。「Dynamite」にはそんな、コロナ禍の時期を経てたどり着くアーティストと聴き手との間の物語が見える。クラッピングが入りピアノの厚みが増し、コーラスで一気に広がり今度は長めのサビへ。
BTSはこの「Dynamite」で名実共に世界に認められたが、有名人である前に彼らも一人の人間なわけで、ソーシャルメディアを通して「ARMY(アーミー)のみんなと一対一で向き合う」姿勢でいる。
その率直さがいい。このリアルタイムでの聴き手とのキャッチボールこそが、争いや不安が広がる世界で、言語を超え「国境のない地図」に新しい絵の具を塗っているのだろう。
そもそもKポップは国内だけで収まらず世界とつながろうとする傾向があったように思う。音楽メジャーが考えるPRとは違うやり方で外国へ出て、草の根作戦で挑戦する。その発想はいま多くのニューヨーカーを楽しませているコリアンフードなどにも如実に表れている。
コリアンの友人の「僕らは母国には帰らない。その覚悟でアメリカに来ている」という言葉が今も脳裏から離れない。BTSが移住するかは分からないが、志は同じだろう。