2014年には良かったロシア軍の情報収集・通信が今回ひどい理由
戦争は情報収集・評価、シミュレーション、補給「ロジ」能力が命
ナマの戦争はコンピューター・ゲームといくつかの点で違う。弾に当たると痛いし、本当に死んでしまう――というのは当然として、まず敵の地理、地形、交通路など十分調べておかないと攻め込んでから立ち往生してしまう。
そして敵の持っている武器、兵員、士気なども調べておかないと、悪くするとこちらが全滅する。よく言う、「情報収集」とその分析=インテリジェンスが絶対必要。
2014年のクリミア併合では、後で言うようにロシア軍諜報部GRU〔ロシア連邦軍参謀本部情報総局。現在のロシア連邦の前身であるソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)から存続する秘密情報機関の一つ〕のインテリジェンスが良かったようだ。
これは、クリミアのセヴァストポリにロシア海軍が基地を租借しているし、ロシア系人口も多いから可能になった。しかも当時、ウクライナ軍はないも同然。ウクライナ語人口ですら、ロシアに支配されロシア並みの給与が出れば、収入が3倍ほどになるのを皆、知っていた。
「だからクリミアの住人はロシアへの併合を支持する」というのがGRUの事前秘密調査でわかっていたのだ。併合はほぼ流血なしに完了する。
しかしそのGRUは調子に乗って、東ウクライナ制圧、さらには南ウクライナ制圧まで突き進み、現地での抵抗を受けて道半ばで止まる。そのことはまた後でくわしく言うことにするとして、今回のロシア・ウクライナ戦争(宇露戦争)では、事前の情報収集・評価はもっとひどかった。
プーチンは秘密警察KGB〔ソ連の情報機関・秘密警察〕の出身。警察や軍隊は秘密体質が強い。敵に情報がもれると捜査や作戦に差し支えるから、部下に何のために何をするのか全容を言わない。ただ細かい具体的な任務ばかりを言いつけて、情報は自分が一手に独占する。
今回のウクライナ作戦がそうだった。大臣たちも、そのほとんどはこれを事前に知らなかったし、軍や情報機関の中堅幹部でもこれを知らなかった。
それでも、アメリカのバイデン政権は2021年の秋から、「ロシアはウクライナへの侵入を準備している」と騒いでいたのだが、これはまぐれだろうか?
全容を知らずに、通信体制も悪いのに、北方、東方二方面、南方の合わせて四方面に兵力を分散して侵入を開始する。これでは兵力が薄まってしまう。しかも国道を一列縦隊で整然と進軍するなど、侵入というよりは、既に破った相手を占領するための行動だ。