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ウクライナ戦争

2014年には良かったロシア軍の情報収集・通信が今回ひどい理由

2022年4月22日(金)16時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ロシアの情報機関は、ロシアのエリート層のいい加減な国際情勢認識に合わせたようなレポートを、上に上げ続けていたのだろう。「EUはばらばら。アメリカは民主党・共和党に分裂し、アフガニスタン撤退の時に見せたように、もはや世界を仕切る力も、意志もない。東ウクライナのロシア系住民は虐げられていて、ロシア軍の進軍に喝采することでしょう」という調子で。

それに加えて、プーチンの思い込み、そして自分の「軍事的才能」への過信が軍をあおったのかもしれない。彼の軍事勘は2014年のクリミア併合、次の年のシリア平定ではみごとに成功した。アメリカやNATOが何もしない、何もできない間に、うまく隙を見つけて、小さな兵力で大きな成果を上げることができたのだ。

素人の総司令官が自分の能力を過信して軍を動かして、いいことは起こらない。ヒットラー・ドイツはそれで自滅している。

プーチンは2021年7月、「ロシア人とウクライナ人の歴史的同一性について」という論文を発表し、ロシア人とウクライナ人はもともと同根、しかしウクライナ人はきちんとまとまった国家を作れていない。スラブ民族の団結はロシアの使命だと主張した。これはウクライナへの宣戦布告である。

このやり方は、昔の独裁者スターリンと同じ。スターリンは何か大きなことをやろうとすると、「○○○について」と題するエセ学術論文を発表し、役人や学者たちにその実行と遵守を迫ったのだ。

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第二章 どうしてこんな戦争に? ――ウクライナとは、何があったのか
第三章 プーチンの決断 ――なぜウクライナを襲ったのか
第四章 ロシアは頭じゃわからない ――改革不能の経済と社会
第五章 戦争で世界はどうなる? ――国際関係のバランスが変わる時
第六章 日本をウクライナにしないために ――これからの日本の安全保障体制
あとがき ――学び、考え、自分たちで世界をつくる

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