最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナ、児童養護施設にいた10万人の子どもたち 戦時下で厳しい状況に

2022年4月4日(月)11時04分
ウクライナ・リビウの児童養護施設にいる子どもたち

ロシア軍の侵攻から逃れたニーナさんが先週16歳の誕生日を迎えたのは、ウクライナ東部にいる家族や友人から遠く離れたリビウにある児童養護施設だった。写真はリビウの児童養護施設で3月25日撮影(2022年 ロイター/Zohra Bensemra)

ロシア軍の侵攻から逃れたニーナさんが先週16歳の誕生日を迎えたのは、ウクライナ東部にいる家族や友人から遠く離れたリビウにある児童養護施設だった。

ニーナさんを含む23人の子どもたちは、1000キロ以上も離れた東部の前線に近いリシチャンスクにある別の児童養護施設から避難してきた。ニーナさんはリシチャンスクでの友人たちを懐かしがり、いつまた会えるか分からないと嘆く。

「いつも遊びに来てくれた。一緒に色んなことを乗り越えてきたのに」

ニーナさんは、昨年2月に家出した。父親が亡くなった後、母親が酒に浸り、男性らを家に連れ込むようになったからだ。

当初は友達と暮らしていたが、家出したことが学校に知られ、昨年のうちにウクライナの大規模な児童養護制度の対象となった。

ウクライナは、公立の養護施設で暮らす子どもの数が欧州で最も多い。理由は主として、家計がひどく苦しいか、育児が成り立たないほど家庭が崩壊しているためだ。

ニーナさんは故郷に戻って母親と暮らしたいとは思っていないし、母親が彼女に家にいてほしいと考えているとも思えない。とはいえ、戦争のせいで彼女は遠い街に足止めされ、ひとりぼっちだ。

リビウの児童養護施設のスビトラナ・ハブリリュク所長と職員らは、ニーナさんをはじめ、担当している3歳から18歳までの子どもたちの世話に最善を尽くしているという。

ウクライナの大規模な児童養護制度は、政府が社会において重要な役割を担っていた旧ソ連時代の名残だ。だが今は、膨大な数の住民が戦火を逃れようと自宅を去り、親族の追跡が不可能になってしまう例も多いことに悩まされている。

国際連合児童基金(ユニセフ)によれば、ロシアの侵攻以前、ウクライナでは700カ所近い公立の児童養護施設、寄宿制学校、乳児院で暮らす子どもが10万人いた。

ウクライナ社会政策省による3月19日以降の最新データによれば、開戦以来、こうした子どもたちのうち約5000人が、国内・国外のより安全な地域に避難したという。

約3万1000人、つまり児童養護制度対象者のほぼ3分の1が、急遽、両親や法的後見人のもとに戻されたが、児童養護関係者や児童心理学者は、そうした措置に伴う固有の問題も発生していると指摘する。

ハブリリュク所長はロイターの取材に対し、「子どもたちは戦場になっている地域から来ている」と語った。「戦火の下でこの制度がうまく機能するかどうか、なんとも言えない。(略)親たちを見つけられるだろうか。彼らが存命かどうか誰に分かるのか。ここでも非常事態が生じたらどうするのか」

5歳のナスチャちゃんと、その兄弟である3歳半と7歳の男の子の母親に何が起きたのか知る者は、リビウの児童養護施設には誰ひとりいない。3人はニーナさんと同様、戦争が始まった2月24日に、リシチャンスクからいち早く逃れてきた。

ウクライナの西端に位置するリビウに3人を連れてきた児童養護職員のオルガ・トロノワさんは、自分が知っているのは、彼女たちが昨年末、アルコール依存症の母親のもとから連れてこられたということだけだと話す。それ以降、連絡をとってきた親戚はいなかったという。

トロノワさんの背後では、ピンクの上着、ピンクと白の帽子を身につけたナスチャちゃんが、戸外の遊び場に設けられた砂場で遊んでいた。兄弟たちは近くの滑り台に登ったり降りたりしていた。

難しい判断

ウクライナ国内の児童養護施設ネットワークで暮らす子どもたちの中には孤児もいるが、薬物中毒やアルコール依存症、児童虐待といった問題を抱える家庭から引き取られる例の方が多い。子どもたちの約半数には身体的・精神的障害がある。

養親を必要としている子どもたちの絶対数が多く、またウクライナで養子縁組の手続きに比較的時間がかからないことから、西側諸国の養親候補者にとってウクライナは馴染みの深い国だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中