ロシアvsウクライナ情報戦の最前線で起こっていること
LOSING THE PROPAGANDA WAR
ベラルーシと中国が手本に
世論はどうあれ、プーチン政権は情け容赦ない報道統制に乗り出しているようだ。
3日にはロシア最後の独立系ラジオ局「モスクワのこだま」が解散に追い込まれ、独立系テレビ局ドーシチも放送を休止。最後の番組の放送後、画面はチャイコフスキー作曲の『白鳥の湖』のバレエ映像に切り替わった。
旧ソ連時代、危機が発生した際や指導者が死去した際に流れた映像だ。「良くないこと」が起きたときに流れることでおなじみの映像を使い、最後の「抵抗」を示したということだろう。
ロシア政府はソーシャルメディアへの規制強化を図っている。通信・情報技術・マスコミ監督庁はツイッターとフェイスブックへのアクセスをブロックすると発表、YouTubeについても検討中だ。
4日には、ロシア軍の活動に関するフェイクニュースを流した場合は最長15年の禁錮刑を科す法案にプーチンが署名。偽情報好きな政権が現実とフェイクニュースをどう区別するのか、進歩的な勢力には謎だ。
一方、出国しようとしたロシア国民は、国境警備員からスマホなどのロックを解除して個人的なメッセージやテレグラムのチャンネルを見せるよう強要されたと報告している。
プーチン政権は独立色の強いテレグラムをはじめ外国のソーシャルメディアへのアクセスを完全に遮断することに苦戦しているのかもしれない。そうした検閲が技術的に可能なのか、懐疑的な見方は根強く残るだろう。
ロシアの技術力は中国に遠く及ばない。その中国でも独自のインターネットサービスを完成させ、世界のほとんどをシャットアウトするまでに10年以上を費やした。
プーチンには隣国ベラルーシのルカシェンコ政権の行動が参考になるかもしれない。ベラルーシでは反体制派が抗議デモの際にテレグラムのチャンネルで反政府的な情報を公開した。
ルカシェンコ政権の治安部隊は、望ましくない情報を拡散したとして一般ユーザーを手当たり次第に拘束。テレグラムを用いた報道チャンネル「ネクスタ」の創設者で反政権派のロマン・プロタセビッチを拘束するため、彼が乗っていた航空機を強制着陸させるなど、計画遂行のためなら手段を選ばない。
ベラルーシの治安維持システムの恣意的なアプローチと、中国のようなITを駆使した大衆監視システムをもってすれば、今回のプロパガンダ合戦でロシアにも勝ち目はあるかもしれない。
これはロシア市民と言論の自由にとって恐ろしい措置であり、全権を掌握した独裁者のすることに思えるかもしれない。
だがプーチン政権の当初のシナリオは違った。紛争はロシア軍の楽勝、ウクライナ側の反ロシア勢力は跡形もなく消え去り、国民は救世主ロシアという幻想の下で結束する......。
しかし現実には、このプロパガンダ合戦でプーチンは明らかに守勢に回り、最後の抵抗を試みているのだ。