最新記事

ウクライナ情勢

ロシアvsウクライナ情報戦の最前線で起こっていること

LOSING THE PROPAGANDA WAR

2022年3月16日(水)14時15分
イアン・ガーナー(歴史学者)

ロシア政府が管理する国営メディアの視聴者は、テレグラムのようなプラットフォームを利用しない高齢者層が中心だ。これらの新聞やテレビは、ゼレンスキーの情熱的な演説も、ロシア人と西側に向けた訴えも、ほぼ無視してきた。

しかし、ロシア当局は「キエフの幽霊」神話を攻撃し始めている。ロシア連邦共産党機関紙のプラウダは、「実在の人物というよりプロパガンダの神話に近い」と断じた。

ニュースサイトのスボボドナヤ・プレッサはパイロットの名前を具体的に挙げ、2014年にウクライナ東部のドンバス地方で分離独立派がウクライナ軍と戦闘に発展した際に、ロシア人を爆撃した兵士だと非難した。

ロシアのプロパガンダ機関は、「キエフの幽霊」が年配のメディア消費者にも広がっていると考えている。それは、親ウクライナの情報が、ソーシャルメディアから広がっているということだ。

ただし、ロシア政府は今もかたくなに、この戦争を「特別軍事作戦」と呼び続けている。そのため、長く困難な戦いになりそうな紛争に対して国民の熱意を鼓舞しようにも、思うようにいかない。

2015年に政府の支援を受けて創設された準軍事組織の青少年軍は3月1日に、「ウクライナ領内で特殊作戦を遂行中の兵士」に感謝の手紙を書こうと呼び掛けた。

この投稿に付いた数百件のコメントの大半は肯定的だが、懸念や混乱を示す内容は即座に削除されている。中には、「戦争をしていないのに兵士に手紙を書けるのか?」と問う人もいた。

国民の戦意高揚を図る一方、侵攻ではないと言い張るというばからしいほどの矛盾に、ロシアの国営メディアは苦境に陥っている。

週刊紙「論拠と事実」は旧ソ連時代には進歩的な報道で当局ににらまれたものだが、3月3日付の記事で最も読まれたトップ5は、軍事3本(ウクライナ軍が自国民を攻撃か、ウクライナが核兵器開発を計画か、ゼレンスキーがプーチンに降伏か......と仮定や想像の話ばかり)と金融2本(物価上昇に伴う年金支給額引き上げ、インフレ率上昇を受けてローン返済一時停止の提案)だった。

旧ソ連時代から一貫して政府べったりのプラウダに至っては、そうした金融関連の悪いニュースを一蹴するかのようだ。

物価上昇は制裁とは無関係、欧米企業の撤退は彼らの短慮の表れ、制裁は原油価格を上昇させるだけでロシアに味方し、欧米には打撃......。ウクライナ側が普通の人々の勇敢さをアピールしているのとは対照的に、新帝国主義的で弁解がましい内容で、戦争に対する世論の支持拡大は難しいだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中