最新記事

ウクライナ情勢

ロシアvsウクライナ情報戦の最前線で起こっていること

LOSING THE PROPAGANDA WAR

2022年3月16日(水)14時15分
イアン・ガーナー(歴史学者)
ウクライナのゼレンスキー大統領

ゼレンスキーの熱いメッセージはロシアでも急速に拡散している UKRAINIAN PRESIDENT OFFICE-REUTERS

<ゼレンスキーはロシア語で語り掛け、真偽不明のウクライナの物語はロシア国内でも効果を上げている。プロパガンダ戦でも劣勢に立たされるロシアが最後に頼るのは、ベラルーシ式のアプローチか>

戦争が始まって半月余り。ロシアは戦場でもプロパガンダを駆使した情報戦でも劣勢に立たされている。

軍事的な抵抗も民衆の反対も徐々に引いていくだろうと、ウラジーミル・プーチン大統領は考えていたのかもしれない。しかし、その希望は消えつつある。

ウクライナはソーシャルメディアを通じて歴史的な物語を広め、国内の結束を強化するとともに、戦争の価値について意見が分かれるロシア人に不満を植え付けている。

ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は首都キエフから、臨場感あふれる動画を次々に発信。ロシア軍が侵攻しても自分と閣僚はとどまると主張している。

冷静に、自身の母語であるロシア語でロシア国民に語り掛け、平和を訴える。ウクライナがロシア語話者を弾圧しているというプーチンの大仰な主張を考えれば、これは重要な振る舞いだ。

対照的に、プーチンの演説は今のところ事前に録画されたもので、人々に「あなた」ではなく「国民」と呼び掛ける。自分の側近とさえ、途方もなく長いテーブルの端と端で話をする。普段の男らしい行動派というイメージからは程遠い。

ゼレンスキーは3月3日の記者会見で、プーチンに交渉の席に着くようロシア語で呼び掛けた。

「私と座って話をしよう。(仏大統領エマニュエル・)マクロンや(独首相オーラフ・)ショルツと会ったときのように、30メートルも離れる必要はない......私はあなたの隣人だ......かみついたりしない。私は普通の男だ......あなたは何を恐れているのか」

一方、ウクライナでは至る所で、「ロシア軍と勇敢に戦う普通の人々」という戦争神話が生まれている。

開戦直後からロシア軍機を立て続けに撃墜したというウクライナ空軍の戦闘機パイロット「キエフの幽霊」。黒海のスネーク島の守備隊はロシア軍の脅しに屈せず、艦砲射撃で全員が殉死したとたたえられた(実際は生存していた)。

こうした神話がソーシャルメディアで瞬く間に拡散されるときに、その真偽は関係ない。勇敢な指導者や部隊の物語は、ロシアへの抵抗の下にウクライナ国民を団結させる強力なツールになっている。

magSR20220316propagandawar-2.jpg

wildpixel-iStock.

「戦意高揚」に突き進めない

さらに重要なのは、ウクライナのメディアの猛攻撃が、ロシア国内でも効果を上げていることだ。

ゼレンスキーの動画やウクライナ軍の英雄たちの物語は、ロシアで月間3800万人のユーザーを数えるテレグラムなどのソーシャルメディアで、野火のごとく広まっている。

ゼレンスキーの3日の演説は、ロシアで人気のラッパー、モルゲンシュテルンがテレグラムで運営するチャンネルで30万回以上、視聴された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、国防長官に「全幅の信頼」と報道官 親族

ビジネス

米CB景気先行指数、3月は0.7%低下 関税巡る不

ワールド

プーチン氏「和平構想に前向き」、復活祭停戦後の戦闘

ビジネス

トランプ氏、早期利下げ再要求 米経済減速の可能性と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 2
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投稿した写真が「嫌な予感しかしない」と話題
  • 3
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ページを隠す「金箔の装飾」の意外な意味とは?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 9
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 10
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中