最新記事

追悼

平和のため、アメリカの力を堂々と主張したオルブライト元国務長官【追悼】

Death of a Patriot

2022年3月28日(月)20時40分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)
マデレン・オルブライト

強い信念と鋭い洞察力がオルブライトの存在を際立たせた DAVID HUME KENNERLY/GETTY IMAGES

<アメリカ初の女性国務長官は「アメリカは不可欠な国」と述べ、衝突を恐れずに自国と民主主義の力を信じた>

女性初の米国務長官を務めたマデレン・オルブライトが、3月23日に死去した。84歳だった。

彼女はその長いキャリアの中で、平和を維持し外交の重要局面で突破口を開くため、アメリカの力を堂々と主張することで知られた。

父のヨセフ・コルベルはチェコスロバキアの外交官で、一家はナチスの迫害を逃れるために亡命した。

そんな家族の歴史が自らの外交姿勢に大きな影響を及ぼしたと、オルブライトは断言していた。

「ヨーロッパを解放したのはアメリカだ」。オルブライトは1999年、旧ユーゴスラビアのコソボ紛争への軍事介入を主導する直前、筆者にそう語った。

自分のルーツがある欧州では善良な人々が長く虐げられたと述べ、「私はアメリカの力を信じる。それが私の政治哲学だ」と言った。

しかし彼女はそのタカ派的な立場のために、クリントン政権の同僚たちと衝突もした。

ボスニア紛争への軍事介入を早くから主張したオルブライトは、コリン・パウエル統合参謀本部議長(当時)を非難した。パウエルは回顧録に、オルブライトから「あなたはいつもアメリカは最高の軍を持っていると言うが、使わなければ何の意味があるのか」と詰め寄られたと書いている。

身長は150センチ余りだったが、オルブライトはいつもトレードマークのステットソン帽を目深にかぶり、堂々と部屋に入ってきた。

彼女は国務長官在任中に、アメリカは世界にとって「不可欠な国」だと発言して批判された。

だが国務省報道官だったジェームズ・ルービンによれば、この言葉は冷戦後のアメリカが孤立主義に陥るのを恐れ、国外だけでなく国内にも向けて使ったものだった。

NATOの東方拡大にも尽力した。1999年にはチェコ、ポーランド、ハンガリーが加盟し、西側の同盟が旧ソ連圏に拡大を始める。

記念式典でオルブライトは、赤ん坊の頃に一家がチェコスロバキアからイギリスに逃れたことに思いをはせ、涙を流した。

「歴史の流れを変えた」

2000年にはアメリカの現役閣僚として初めて北朝鮮を訪れ、当時の金正日(キム・ジョンイル)総書記と会談。同じ年にポーランドで開かれた民主主義共同体閣僚級会合も彼女の発案だった。

その戦略的能力を批判する人々もいた。

彼女は「オル(オール=全部)」ではなく「ハーフブライト(半分だけ聡明)」だと陰口をたたき、明確な外交ビジョンがないと非難する声もあった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中