最新記事

大統領選

露骨な男尊女卑で逆転勝利した韓国「尹錫悦」新大統領は、トランプの劣化版

MISOGYNY PREVAILS IN SOUTH KOREA

2022年3月25日(金)18時00分
ネーサン・パク(弁護士、世宗研究所非常勤フェロー)
尹錫悦新大統領

韓国大統領選で勝利した尹錫悦 LEE YOUNG-HOーSIPAーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<歴史的な僅差の末に、韓国大統領選を制した尹錫悦(ユン・ソギョル)前検事総長が、巧みに利用したメディアと反フェミニズムの機運>

あれは5年前の3月10日のこと。韓国の憲法裁判所は全員一致で、議会で弾劾された朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)の罷免を合憲とする歴史的な判断を下した。所長代行の李貞美(イ・ジョンミ)が判決文を読み上げると、韓国政界に激震が走った。

大統領の弾劾に抗議するデモでは3人の死者が出ていた。国軍が戒厳令によるデモ鎮圧を計画したが、寸前で思いとどまったことも後に判明した。一方、朴政権に反対する人々は一致団結し同年5月の大統領選でリベラル派の文在寅(ムン・ジェイン)を勝利に導いた。

その李貞美が再び注目を浴びたのは今年1月。既に憲法裁判事は退任していたが、今度は原告側の弁護人として、国を相手に文政権の進める総合不動産税(CRET)構想について違憲訴訟を提起したのだ。高額な住宅を所有する個人や法人に対し、通常の固定資産税に加えて特別な累進税を課す計画で、いわゆる富裕税の一種だ。

実際、CRETの課税対象となるのは国内にある全住宅の2%にすぎず、税額も高くはない。例えば価格130万ドル以上の住宅を所有する個人の場合、CRETの税額は年間で400ドル程度だ。それでも李貞美を含む原告団は、CRETは憲法で認められた財産権と平等の原則に違反していると法廷で主張した。

勝敗を分けた不動産課税の強化への反発

思えば、これが予兆だった。去る3月9日、かつて朴槿恵が率いた自由韓国党の後継政党である「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソギョル)が、次期大統領に選出された。歴史的な僅差の勝利だったが、与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補の猛追を振り切った。勝敗を分けたのは、不動産課税の強化に対する有権者の反発だった。

そもそも尹は、朴槿恵の犯罪を暴いたキャリア検察官だった。だから当初はリベラル派の間で大きな支持を得ていた。しかし2019年に検事総長に任命された後は、検察の権限を縮小しようとする文政権の改革に激しく抵抗。曺国(チョ・グク)法相やその家族に対する数々の疑惑を追及して曺を辞任に追い込み、一転して保守派の寵児となった。

そして昨年6月、尹は「国民の力」から大統領選への出馬を表明した。しかしその後の展開は、まるでドタバタ喜劇のようだった。

現政権で検事総長に起用された男が野党に寝返り、政治経験もないのに9カ月後の大統領選を目指すというだけでもかなりの珍事だ。しかも「一日一失言」と揶揄されるほど失言・放言が多かった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中