したたかで不屈の男...ゼレンスキ―が「大国」から国を守るのは、実は今回が2度目
A FIGHTING CHANCE
3日後の7月25日、ゼレンスキーはトランプとの電話会談に臨んだ。このときトランプはゼレンスキーに対し、バイデンが次男の税法違反疑惑について「訴追を阻止した」疑いを調べるために「あらゆる手を尽くす」よう、一層の圧力をかけた。
この電話会談の間、ゼレンスキーはトランプに取り入るような姿勢を示し続けたが、具体的な行動を確約することはなかった。トランプは満足せず、ウクライナへの約4億ドルの軍事支援を保留した。
ゼレンスキーが要求を受け入れなかった裏には、戦略的な理由もあった。アメリカで争う二大政党のうち一方に肩入れをしたように受け止められ、もう一方の支持を失うことはしたくなかった。
ゼレンスキーはこの電話でトランプにこびへつらいながらも、彼の要求を最後まで受け入れなかった。ゼレンスキーはトランプが選挙戦で使った「ヘドロをかき出す」というキャッチフレーズをまねていると言い、「あなたは私たちの偉大な手本だ」と褒めそやした。
後に「トランプがゼレンスキーを脅した」という内部告発を受けて、この会談の概略が公になると、ゼレンスキーは「卑屈だった」「トランプに同調しすぎた」という批判が起こった。しかし全力でトランプの機嫌を取り、それでいてウクライナを破滅に導きかねない要求に屈することがなかったという点で、ゼレンスキーの対応は完璧だった。19年9月には内部告発者が通話を暴露したことがきっかけで、保留されていたウクライナへの約4億ドルの軍事支援が承認された。
米議会は超党派でウクライナ支援を支持
一連の問題が明るみに出たことについては、ゼレンスキーも重要な役割を果たしていた。米民主党が告発内容の調査を立ち上げる1週間前、ゼレンスキーは同党のクリス・マーフィー上院議員に対し、ジュリアーニからバイデンを調査するよう圧力を受けていたと明かした。彼は最後の手段として、トランプの弁護士を「売った」のだ。
自分自身とウクライナにとって大きな惨事に発展していた可能性があるこの問題に、ゼレンスキーは巧みに対処した。その結果、彼はウクライナへの巨額の軍事支援について、米議会で超党派の支持を得た。
トランプの1回目の弾劾訴追の翌年である20年には、ウクライナに対して2億5000万ドルの安全保障関連支援と、対戦車ミサイル「ジャベリン」150基の提供が超党派の支持によって承認された。大統領となったバイデンは昨年、ウクライナに武器を提供しないというオバマ元政権の方針を覆し、1億2500万ドルの軍事支援と、ジャベリンの追加提供を承認。これも超党派の支持によるものだった。