したたかで不屈の男...ゼレンスキ―が「大国」から国を守るのは、実は今回が2度目
A FIGHTING CHANCE
ゼレンスキー(左)はトランプ(右)の機嫌を取りつつ要求には屈しなかった(2019年9月) JONATHAN ERNSTーREUTERS
<プーチンの軍隊を相手にウクライナ国民を鼓舞し続けるウクライナ大統領は、かつてトランプが突きつけた不当な要求に屈しなかったしたたかな人物>
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシア軍による侵攻に徹底抗戦の構えを貫き、国際社会を味方に付けている。
だが戦争が実際に始まる直前までは、彼に国を守る能力があるかどうかを疑う声が多かった。例えばウクライナのネットメディア「キエフ・インディペンデント」のオルガ・ルデンコ編集長は2月21日付のニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、元コメディアンのゼレンスキーは「自らの処理能力を超えた状況の中にいる」と指摘した。
しかしロシア軍が侵攻して間もなく、ルデンコをはじめ多くの人々がゼレンスキーへの評価を一変させた。ルデンコは侵攻翌日のツイッターに「彼は今まで多くのひどい失敗をしてきたが、今日は国の指導者にふさわしい姿を見せている」と投稿した。
ゼレンスキーに向けられていた批判(主として国内の腐敗を撲滅できないことへの批判)は、もっともなものだった。しかし彼が今回の事態に対処できることを予感させる出来事が、少なくとも1つあった。2019年にドナルド・トランプ米大統領(当時)に脅迫されるという事態を巧みに乗り切った一件だ。
トランプ陣営が突きつけた要求
ゼレンスキーが19年5月に大統領に就任した直後から、トランプの個人弁護士だったルディ・ジュリアーニは彼に圧力をかけ始めた。ジョー・バイデン(現米大統領)の次男ハンターとウクライナのガス会社に絡む疑惑について調査を行わせようとしたのだ。翌年の大統領選を前に、対抗馬となるバイデンに打撃を与えることが狙いだったとみられる。
さらにジュリアーニは、16年の米大統領選にロシアが介入した問題から目をそらさせる目的で、実は介入していたのはウクライナだったという説について調査を行うようゼレンスキーに迫った。19年7月22日の電話でジュリアーニは、ゼレンスキーの側近にこう語った。「大統領にやってほしいのは『信頼できる検察官を担当に付け、その検察官が捜査して証拠を掘り出す』と言ってもらうことだけだ」
ジュリアーニは、ゼレンスキーが一連の調査に着手するのは、アメリカとの関係が「はるかに良好なものになる」材料だとも語った。既にウクライナでは政府軍と親ロシア派の5年にわたる戦闘で、約1万3000人の犠牲者が出ていた。ゼレンスキーにとって、米大統領からの支持は何としても欲しかった。