最新記事

ダークウェブ

ロシア情報統制、闇ネット「ダークウェブ」が公平な情報を届ける光に

2022年3月14日(月)19時20分
青葉やまと

プーチン大統領は戦時統制を強化し、情報網の遮断を進めているが......REUTERS/Alexey Pavlishak

<TwitterやFacebookなどの遮断に踏み切ったロシア政府。国民は、これまで犯罪の温床として恐れられてきたダークウェブの技術を活用し、海外発の公平な情報を入手している>

ロシアのプーチン大統領は戦時統制を強化し、情報網の遮断を進めている。国民にとって正しい情報を得る最後の希望となっているのが、これまで犯罪の温床として危険視されてきたダークウェブだ。

ロシア通信規制当局「ロスコムナゾル」は3月4日、欧米の国営ニュースサイトへのアクセスを遮断した。これによりロシア国内からは、英BBC、米ボイス・オブ・アメリカ、独ドイチェ・ヴェレなどが閲覧不可となった。

さらにロスコムナゾルは7日までに、FacebookおよびTwitterへのアクセスを遮断している。14日からはInstagramへのアクセスがブロックされる。これらSNSはロシア国営メディアによるフェイクニュースを抑制し、ウクライナでの生々しい戦況を動画で伝えるなど、ロシア国民にバイアスのない現状を届けてきた。

一連のアクセス遮断により、政権によるプロパガンダの拡大が懸念されている。そこでにわかに脚光を浴びているのが、これまで犯罪の温床ともいわれ危険視されてきたダークウェブの一種「Tor(トーア)」だ。

ダークウェブは利用者のプライバシー保護に優れるが、その反面、著作権コンテンツの無断配布から人身売買の商談の場まで、合法・違法のサイトが入り混じる。これまで闇のネット空間とも捉えられてきたダークウェブだが、今ではロシア国民が真実の情報を得るための最後の手段となりつつある。

3重のタマネギ構造で暗号化

ダークウェブをひとことで言い表すならば、誰がどのサイトへアクセスしたかをほぼ追跡できないネットワークだ。専用ブラウザに専用URLを打ち込むことで、各社や個人が運営するTor専用のサイトにアクセスする。

通常のネット(ダークウェブに対して「クリアネット」と呼ばれる)であれば、たとえ通信内容が暗号化により保護されている場合であっても、どのサイトと通信しているかまでを隠すことはできない。そのため、プーチンの指示を受けたロシアのプロバイダー(ネット接続業者)各社は、BBCやTwitterなど特定サービスへの通信を検知・遮断することが可能だ。

情報規制を受けロシア国内では、ダークウェブの一種であるTor経由での閲覧方法が広まりつつある。Torは「The Onion Router」の略称であり、まるでタマネギのように複数の層で宛先アドレスを暗号化することから名付けられた。

Torを経由すると、通信先サイトのアドレスが3重に暗号化される。その後、まるでタマネギの皮をむくように、Torネットワークに参加する有志の中間サーバーを経由するごとに1枚ずつ暗号化解除されてゆく。

プロバイダーとしては、通信をパスする先となる最初の中間サーバーのアドレスを知ることは可能だ。しかし、最終的にユーザーがどのサイトへアクセスしたいのかまでは、暗号化されていて解読できない。このため、宛先ごとにアクセスを遮断できないしくみだ。

大手SNSおよび報道各社もこうした特性を評価し、専用サイトの開設に踏み切っている。2014年の段階でTor対応を済ませていたFacebookに加え、BBCや英ガーディアン、そして直近ではTwitter
などがTor対応サイトを開設し、ロシア国内からのアクセスを支援している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中