最新記事

ダークウェブ

ロシア情報統制、闇ネット「ダークウェブ」が公平な情報を届ける光に

2022年3月14日(月)19時20分
青葉やまと

規制当局がねらったTorの弱点

ただし、ロシア規制当局も無策ではない。昨年12月にはTorネットワークへの通信全体をブロックしている。通常Torでは3台の中間サーバーを経由するが、入口となる1台目のサーバー群のアドレスは公開されている。そうしないとユーザーが利用できないためだが、ここがTorの弱点となった。規制当局はこの入口サーバーのリストを参照し、アクセスを順次遮断していった。

しかし、Tor側も易々とは屈しない。Torプロジェクトはこれまでに、利用可能な入口サーバを都度公開するTorブリッジと呼ばれる技術を開発し、リストの全公開を避けてきた。政府による遮断をさらに困難にするため、現在はSnowflakeなどのソフトの利用を推奨している。これは、すでに検閲リスト入りしたTorの入口サーバーに代わり、無数の新たな入口を提供するものだ。

ロシア国内のユーザーがSnowflakeをインストールすると、海外で同じくSnowflakeをインストールしている有志協力ユーザーに通信が送られ、Torへの入口として機能する。一般的なブラウザのプラグイン(機能拡張)として提供されており、インストールも手軽だ。

ロシア政府としては、Torブリッジに協力する海外の全ユーザーを禁止リストに加えたいところだろう。だが、協力ユーザーは2万5000人ほど存在し、その時点でソフトを稼働させているユーザーは刻々と変動する。IPアドレスも変化するため、抜け穴を塞ぐことは事実上不可能に近い。

ドイチェ・ヴェレは、「情報を求めてやまないロシア人たちがこの障害(アクセス遮断)をう回する知識を持ち合わせていない、と考える人々は間違いである」ことが証明される結果になったと述べている。

当局の規制に次々と対抗

規制当局とTorプロジェクトのイタチごっこは続く。当局はTor自体の周知とソフトの入手を難しくするべく、プロジェクトのウェブサイトへのアクセスを遮断した。Tor側はミラーサイト(同一内容を提供する別サイト)を用意して対抗している。

ロシアのTorユーザー数は世界2位の規模となっており、1日あたり30万人を超える利用がある。プロジェクトは、「この状況は瞬く間に国全体でのTorの遮断へと発展すると思われるため、この検閲への対抗が我々の急務です」と述べ、自由な情報の流通を確保する責任を自負している。

Torなどのダークウェブはその高い秘匿性により、プライバシー保護の手段として重宝されてきた。同時に、身元の追跡がほぼ不可能という性質上、違法な情報を捜査機関の追跡なく交換する場としても用いられている。

これまでごく一部の利用者を惹きつけてきたダークウェブだが、現在では情報を覆い隠そうとする政府への対抗手段として、ロシアの一般ユーザーの希望の光ともなりつつあるようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中