ロシア情報統制、闇ネット「ダークウェブ」が公平な情報を届ける光に
規制当局がねらったTorの弱点
ただし、ロシア規制当局も無策ではない。昨年12月にはTorネットワークへの通信全体をブロックしている。通常Torでは3台の中間サーバーを経由するが、入口となる1台目のサーバー群のアドレスは公開されている。そうしないとユーザーが利用できないためだが、ここがTorの弱点となった。規制当局はこの入口サーバーのリストを参照し、アクセスを順次遮断していった。
しかし、Tor側も易々とは屈しない。Torプロジェクトはこれまでに、利用可能な入口サーバを都度公開するTorブリッジと呼ばれる技術を開発し、リストの全公開を避けてきた。政府による遮断をさらに困難にするため、現在はSnowflakeなどのソフトの利用を推奨している。これは、すでに検閲リスト入りしたTorの入口サーバーに代わり、無数の新たな入口を提供するものだ。
ロシア国内のユーザーがSnowflakeをインストールすると、海外で同じくSnowflakeをインストールしている有志協力ユーザーに通信が送られ、Torへの入口として機能する。一般的なブラウザのプラグイン(機能拡張)として提供されており、インストールも手軽だ。
ロシア政府としては、Torブリッジに協力する海外の全ユーザーを禁止リストに加えたいところだろう。だが、協力ユーザーは2万5000人ほど存在し、その時点でソフトを稼働させているユーザーは刻々と変動する。IPアドレスも変化するため、抜け穴を塞ぐことは事実上不可能に近い。
ドイチェ・ヴェレは、「情報を求めてやまないロシア人たちがこの障害(アクセス遮断)をう回する知識を持ち合わせていない、と考える人々は間違いである」ことが証明される結果になったと述べている。
当局の規制に次々と対抗
規制当局とTorプロジェクトのイタチごっこは続く。当局はTor自体の周知とソフトの入手を難しくするべく、プロジェクトのウェブサイトへのアクセスを遮断した。Tor側はミラーサイト(同一内容を提供する別サイト)を用意して対抗している。
ロシアのTorユーザー数は世界2位の規模となっており、1日あたり30万人を超える利用がある。プロジェクトは、「この状況は瞬く間に国全体でのTorの遮断へと発展すると思われるため、この検閲への対抗が我々の急務です」と述べ、自由な情報の流通を確保する責任を自負している。
Torなどのダークウェブはその高い秘匿性により、プライバシー保護の手段として重宝されてきた。同時に、身元の追跡がほぼ不可能という性質上、違法な情報を捜査機関の追跡なく交換する場としても用いられている。
これまでごく一部の利用者を惹きつけてきたダークウェブだが、現在では情報を覆い隠そうとする政府への対抗手段として、ロシアの一般ユーザーの希望の光ともなりつつあるようだ。