ロシア軍「エスカレートさせて脱エスカレートする」戦略と核使用シナリオ
敵の抑止が最大の目的だとしても、その抑止力は「信頼に足る」ものでなければならない。国家存続のための一線が越えられたら、その指導者は核を使用するだろうと、敵国も同盟国も自国も信じさせる必要があるのだ。
では、今回、重大な利益を守るために必要だと判断したら、プーチンは本当に核兵器を使うのか。これはあり得る。
劇的な措置を取らなければ、NATOまたはアメリカとの戦争に負けそうだと思ったらどうか。可能性はかなりある。
近年のロシアの軍事態勢の手引には、「エスカレートさせて脱エスカレートする」という戦略が示されている。それを今回に当てはめると、次のようなシナリオになる。
NATOとロシアが通常戦争に突入し、NATOが優勢になる。ロシアは低出力の核爆弾を何発か発射して、戦勢を覆そうとする(エスカレートする)。このためアメリカ大統領は戦争をストップする(脱エスカレート)。
もしアメリカも核で応じれば、ロシアがさらに多くの核兵器を使うことを懸念するはずだ、というわけだ。
米国防総省も数年前、戦争を過度にエスカレートさせずにロシアに対処する戦略のためとして、低出力核兵器を調達した。その一部は今、トライデント潜水艦発射弾道ミサイルに搭載されている。
「脅し」はポーズだったが
ちょっとクレイジーなシナリオではないかって? どんな核戦略も、少し距離を置いて見ればクレイジーだ。だが、近づいてよく見ると、そこには一定の合理性がある。
そして核のボタンに指を掛けている人物が、その合理性を信じさえすれば、それは現実になり得る。
幸い、プーチンはウクライナ侵攻以降、このオプションを現実にする具体的な措置を取っていない。2月27日に「軍の抑止力(核兵器のことだ)を担当する部隊を特別な戦闘態勢に引き上げる」よう、軍最高幹部に命じたとされるが、実際にどんな措置が取られたかははっきりしない。
ロシアの核戦闘態勢は4段階(アメリカは5段階)あるが、プーチンの表現はそのどの段階にも該当しないと、グローバルセキュリティー・ドットオルグを率いる国防・情報政策専門家ジョン・パイクは28日に語った。
本来なら、核ミサイルを搭載した潜水艦をもっと展開させるか、空中待機状態に置く爆撃機を増やすか、ロシア西部に短距離核兵器を配備することになるが、そうした動きは確認されていないというのだ。