最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナが切望する飛行禁止区域 実効性はないのか?

2022年3月10日(木)14時18分
ウクライナのゼレンスキー大統領

ロシアに侵攻されたウクライナのゼレンスキー大統領は、自国を守るために国際的な飛行禁止区域を設定してほしいと繰り返し訴えているが、米国や他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国は軒並み拒絶している。写真は7日、キエフでスピーチするゼレンスキー氏。ウクライナ大統領府提供動画より(2022年 ロイター)

ロシアに侵攻されたウクライナゼレンスキー大統領は、自国を守るために国際的な飛行禁止区域を設定してほしいと繰り返し訴えているが、米国や他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国は軒並み拒絶している。欧州における全面的な戦争の引き金になりかねないと懸念しているためだ。

飛行禁止区域支持派は、街頭デモ参加者から米国の外交政策専門家まで多岐にわたり、ウクライナの人命を救う上で不可欠な手段だと主張する。

しかし、米議会ではバイデン大統領を常日頃から最も痛烈に批判している議員でさえ、飛行禁止区域設置には頑強に反対。例えば、野党・共和党のルビオ上院議員は「第3次世界大戦」を引き起こす恐れがあると警告している。

飛行禁止区域は、冷戦終結後の1990年代に安全保障の万能薬とみなされるようになった。ただ、複数の専門家によると、たとえ効果がある場合でも、それは膨大な軍事資源が投入され、しかも相手側が手ひどく敗北しているか、防御力を喪失している状態に限られる。

ロシアは経済的には超大国でないにしても、軍事的になお超大国である以上、こうした状態とはかけ離れている。

◎飛行禁止区域とは

飛行禁止区域は、戦争地域で身を守るすべを持たない民間人が空爆の被害にさらされるのを阻止するのが目的で、数年にわたって設定される場合もある。

有効性を発揮するためには、設置側の空軍力を当該空域において単に優勢ではなく、圧倒的優勢に保たなければならない。つまり空域を支配することに加え、作戦実行面で脅威となる相手の防空システムを破壊する必要がある。

米国の27人の外交専門家は、ウクライナ市民が避難するための「人道回廊」を守るために「限定的」な飛行禁止区域を設置するよう要望した。

一方、軍事専門家は限定的飛行禁止区域でも、ロシア軍との直接戦闘は避けられないと指摘。ホワイトハウスのサキ報道官は8日、人道回廊上空に限った飛行禁止区域であっても、戦闘を激化させ米国とロシアの戦争突入につながる恐れがあるとの見方を示した。

◎米国と同盟国が検討しない理由

ブリンケン米国務長官は先週の記者会見で「飛行禁止区域のような措置の実効性を担保する唯一の方法は、ウクライナ上空にNATO軍機を派遣し、ロシア軍機を撃墜することだ。それは欧州での全面戦争に発展する可能性がある。バイデン大統領は、米国がロシアとは戦争しないという姿勢を明確に打ち出している」と語った。

NATOのストルテンベルグ事務総長は「われわれは戦争当事国ではない」と発言。NATO加盟国のリトアニアはウクライナの飛行禁止区域設置要求を「無責任」だと批判した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中