最新記事

中国

混乱気味の中国が、ウクライナ問題で最も恐れていること

CHINA’S MURKY POSITION

2022年3月3日(木)17時50分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)
習近平とウラジーミル・プーチン

中ロ関係は蜜月に見えるが(2月4日の首脳会談) ALEKSEY DRUZHININ-SPUTNIK-KREMLIN-REUTERS

<中国の論調はロシア寄り、反欧米に傾斜しているが、一方で紛争拡大のリスクや経済の混乱は避けたい。中国内部では対応をめぐり分裂が起きている可能性も>

ウクライナ問題をめぐって、中国は反欧米姿勢を固めることにしたようだ。少なくとも今のところは――。

ロシアがウクライナに軍事侵攻した翌日、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席はロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談し、中国外務省の汪文斌(ワン・ウエンビン)副報道局長は定例会見で、ロシアの「安全保障に関する正当な懸念を理解している」と発言。

侵攻前日には、同省の華春瑩(ホア・チュンイン)報道局長が「現在の緊張の元凶」はアメリカだと批判し、ロシアへの暗黙の支持を示した。

とはいえそれ以前には、王毅(ワン・イー)外相らが、ウクライナ危機の責任論を避け、国家の主権を重んじるとの声明を発表していた。

2月4日に習とプーチンが行った首脳会談を、ロシア側に立つ姿勢の表れだと米政府が見なしたことに、中国当局者らは不快感を覚えたとの報道もある。

ウクライナをめぐる緊張は誇張で、欧米の情報機関の目くらましにすぎないと退けていた中国にとって、ロシアの軍事侵攻は予想外だったと主張するアナリストもいる。

それが事実なら、混乱気味の反応にも納得がいく。政府筋の表向きの発言と現実の溝からは、ほかの大国の動きをどこまで真剣に受け止めるべきか、多くの場合に理解していない中国の姿が浮かび上がる。

ここへきて中国の論調がロシア寄りに傾斜しているのは、ロシアとの極めて有益な連携関係を最優先すると決断したことを意味しているのかもしれない。

あるいは、プーチンがさらに大胆な行動に踏み切ることはないと判断している可能性もある。

中国にとって理想的なのは、2番目のシナリオだろう。それなら、欧米を悩ませつつ、紛争拡大のリスクや経済の混乱を避けられる。

だが他国との関係を最重要視する一派と、イデオロギー状況が自身のキャリアに与える影響を最大の関心事とする一派の間で、分裂が起きている可能性もある。

前者に属するのは主に、国外でより多くの時間を過ごしてきた経験豊富な外交関係者だ。後者のグループはより若く、メディアを重視し、習体制のナショナリズムを出世の基盤にしている。

こうした事態は、世代交代の流れを反映しているのかもしれない。その象徴が外務省報道局長の華だろう。欧米メディアへの攻撃を強める華は、ロシアが不変の同盟相手と見なされた2000~2010年代に昇進してきた。それに対して、年上の高官らはロシアが最大の敵だった「中ソ対立」時代の余波の中で成長した世代だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米メキシコ湾岸の石油施設から作業員退避、熱帯暴風雨

ビジネス

日本投資のヘッジファンド立ち上げ活発化 投資家が市

ビジネス

HSBC、商業銀行と投資銀行の統合を検討 コスト削

ワールド

中国DJI製新型ドローン禁止、米下院が法案可決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    ロシア国内の「黒海艦隊」基地を、ウクライナ「水上ドローン」が襲撃...攻撃の様子捉えた動画が拡散
  • 3
    メーガン妃が自身の国際的影響力について語る...「単にイヤリングをつけるだけ」
  • 4
    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…
  • 5
    非喫煙者も「喫煙所が足りない」と思っていた──喫煙…
  • 6
    歯にダメージを与える4つの「間違った歯磨き」とは?…
  • 7
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 8
    伝統のカヌーでマオリの王を送る...通例から外れ、王…
  • 9
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 10
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
  • 4
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 5
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 6
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 7
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つ…
  • 8
    世界最低レベルの出生率に悩む韓国...フィリピンから…
  • 9
    「私ならその車を売る」「燃やすなら今」修理から戻…
  • 10
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンシ…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 10
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中