最新記事

宇宙

奇妙に光る謎の天体、「ORC(奇妙な電波サークル)」が詳細に観測される

2022年3月28日(月)15時25分
松岡由希子

「ORC」(奇妙な電波サークル)のイメージ  Sam Moorfield/CSIRO

<2019年に初めて発見された「ORC」(奇妙な電波サークル)。いまだ多く謎に包まれているが、この度分析結果が発表された......>

豪州の西シドニー大学の天体物理学者レイ・ノリス教授らの研究チームは、2019年9月、西オーストラリア州マーチソン電波天文台(MRO)に設置されているオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の電波望遠鏡「ASKAP(アスカップ)」を用いて奇妙に光るリングを初めて発見した。

「ORC」(奇妙な電波サークル)と呼ばれるこの現象は電波望遠鏡でのみ検出でき、可視光線や赤外線、X線の波長では観測できない。これまでに確認されたのはわずか5回にとどまっている。「ORC」が形成された原因については「銀河の衝撃波」説や「ワームホール」説など、様々な仮説が示されてきたが、いまだ多くの謎に包まれている。

file-20220314-19-wyzm9c1.jpg

Jayanne English/MeerKAT/Dark Energy Survey

直径約100万光年、銀河を包み込む球状の構造をなしている

ノリス教授らの研究チームは、南アフリカ電波天文台(SARAO)の電波望遠鏡「MeerKAT(ミーアキャット)」の観測データをもとに「ORC」について詳しく分析し、2022年3月22日、学術雑誌「王立天文学会月報(MNRAS)」でその研究成果を発表した。

「MeerKAT」による観測データでは、リングの中心に小さな電波放射の塊がみられ、これは遠方の銀河と一致する。このことから銀河が「ORC」を生成している可能性が高い。研究チームでは「このリングの大きさは約100万光年におよび、約10億光年離れた銀河を取り囲んでいる」と考えている。

また「MeerKAT」が検出したリングの中の微弱な電波放射をモデル化したところ、「ORC」は銀河を包み込む球状の構造をなしているとみられることがわかった。

さらに「MeerKAT」の観測データから電波の偏波をマッピングし、「ORC」の中の磁場の分布を調べた。その結果、球状の縁に沿って磁場が走っていることが示されている。

file-20220302-23-heybxq1a.jpg

円形の磁場を形成している。中央の銀河からの衝撃波によって圧縮されたことを示している(Larry Rudnick / MeerKAT)

「超大質量ブラックホールの合体」説と「銀河のスターバースト」説

研究チームでは、これらの分析結果から、「ORC」が形成された原因を「超大質量ブラックホール(SMBH)の合体」説と「銀河のスターバースト(大質量星が短時間で大量に生成される現象)」説の2つの仮説に絞り込んでいる。

超大質量ブラックホールの合体によって膨大なエネルギーが放出され、ORCが生成された可能性がある。もしくは、スターバーストによって銀河から高温ガスが吹き出し、球状衝撃波が発生したのかもしれない。ブラックホールの合体もスターバーストも珍しい現象であることは「ORC」が非常に珍しいことの裏付けともいえる。

「ORC」をさらに詳しく調べるためには「ASKAP」や「MeerKAT」よりも高感度の電波望遠鏡が必要だ。研究チームでは、現在建設がすすめられている超大型電波望遠鏡「SKA(スクエア・キロメートル・アレイ)」に期待を寄せている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU加盟国、トランプ次期米政権が新関税発動なら協調

ビジネス

経済対策、事業規模39兆円程度 補正予算の一般会計

ワールド

メキシコ大統領、強制送還移民受け入れの用意 トラン

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は売上高と利益が予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中