奇妙に光る謎の天体、「ORC(奇妙な電波サークル)」が詳細に観測される
「ORC」(奇妙な電波サークル)のイメージ Sam Moorfield/CSIRO
<2019年に初めて発見された「ORC」(奇妙な電波サークル)。いまだ多く謎に包まれているが、この度分析結果が発表された......>
豪州の西シドニー大学の天体物理学者レイ・ノリス教授らの研究チームは、2019年9月、西オーストラリア州マーチソン電波天文台(MRO)に設置されているオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の電波望遠鏡「ASKAP(アスカップ)」を用いて奇妙に光るリングを初めて発見した。
「ORC」(奇妙な電波サークル)と呼ばれるこの現象は電波望遠鏡でのみ検出でき、可視光線や赤外線、X線の波長では観測できない。これまでに確認されたのはわずか5回にとどまっている。「ORC」が形成された原因については「銀河の衝撃波」説や「ワームホール」説など、様々な仮説が示されてきたが、いまだ多くの謎に包まれている。
直径約100万光年、銀河を包み込む球状の構造をなしている
ノリス教授らの研究チームは、南アフリカ電波天文台(SARAO)の電波望遠鏡「MeerKAT(ミーアキャット)」の観測データをもとに「ORC」について詳しく分析し、2022年3月22日、学術雑誌「王立天文学会月報(MNRAS)」でその研究成果を発表した。
「MeerKAT」による観測データでは、リングの中心に小さな電波放射の塊がみられ、これは遠方の銀河と一致する。このことから銀河が「ORC」を生成している可能性が高い。研究チームでは「このリングの大きさは約100万光年におよび、約10億光年離れた銀河を取り囲んでいる」と考えている。
また「MeerKAT」が検出したリングの中の微弱な電波放射をモデル化したところ、「ORC」は銀河を包み込む球状の構造をなしているとみられることがわかった。
さらに「MeerKAT」の観測データから電波の偏波をマッピングし、「ORC」の中の磁場の分布を調べた。その結果、球状の縁に沿って磁場が走っていることが示されている。
「超大質量ブラックホールの合体」説と「銀河のスターバースト」説
研究チームでは、これらの分析結果から、「ORC」が形成された原因を「超大質量ブラックホール(SMBH)の合体」説と「銀河のスターバースト(大質量星が短時間で大量に生成される現象)」説の2つの仮説に絞り込んでいる。
超大質量ブラックホールの合体によって膨大なエネルギーが放出され、ORCが生成された可能性がある。もしくは、スターバーストによって銀河から高温ガスが吹き出し、球状衝撃波が発生したのかもしれない。ブラックホールの合体もスターバーストも珍しい現象であることは「ORC」が非常に珍しいことの裏付けともいえる。
「ORC」をさらに詳しく調べるためには「ASKAP」や「MeerKAT」よりも高感度の電波望遠鏡が必要だ。研究チームでは、現在建設がすすめられている超大型電波望遠鏡「SKA(スクエア・キロメートル・アレイ)」に期待を寄せている。