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北朝鮮ICBM実験はアメリカの「気を引く」ためではない...金正恩が宣言したこと

2022年3月29日(火)17時47分
ミッチ・シン
「火星17」の発射実験

「火星17」の発射実験には金正恩(中央)も立ち会ったとされる KCNAーREUTERS

<アメリカの本土全域を射程に収めるミサイルの実験に成功したことで、北朝鮮はかつての危うい瀬戸際外交に逆戻りしてしまったと見るべきだ>

3月24日午後、北朝鮮から発射されたミサイルが日本海に落下した。翌25日、北朝鮮の国営通信社である朝鮮中央通信は、24日に新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射実験を行ったことを明らかにした。

朝鮮中央通信によると、24日に発射したミサイルの最大高度は6248.5キロ、飛距離は1090キロに達し、4025秒(68分)間飛行して予定水域に着弾したとのことだ。この発表内容は、発射の数時間後に韓国軍が示した分析ともおおむね合致する。

北朝鮮は今回、映画のように作り込まれた動画と共に、火星17の発射実験成功を発表した。公表された動画では、最高指導者の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が発射場で喜ぶ姿も映し出されていた。こうした演出は、北朝鮮では異例のことだ。

「新しい戦略兵器は、わが国の戦略武力の威力を全世界に改めて明確に知らしめることになる」と、金は胸を張った。

24日の発射実験を受けた金の発言は、北朝鮮の姿勢がかつての瀬戸際外交の時代に逆戻りしたことを宣言するものでもある。

「わが国の国家防衛力は、アメリカ帝国主義との長期間にわたる対決に向けて徹底した準備を進める。いかなる軍事的威嚇や脅しにもひるむことのない、強大な軍事技術力を整えていく」

アメリカ本土全域を射程に収める

今回行われた火星17の発射実験は、2017年11月のICBM「火星15」の発射実験以来最大規模のものだ。

これを受け、米国務省はアルディス・グループなどロシアの企業2社と北朝鮮の企業1社、北朝鮮国籍の個人1人に制裁を科した。ミサイル開発に転用可能な技術を提供したのが理由だ。通常の軌道で発射すれば、アメリカ本土全域を射程に収めるとみられている。

専門家の間では、近いうちに北朝鮮がアメリカ本土を直接脅かす長距離ミサイルの発射実験を行う可能性があると言われていた。北朝鮮は、2月27日と3月5日に「偵察衛星」の打ち上げ実験と称して、弾道ミサイルの発射実験を行っている。この点を理由に北朝鮮が宇宙探査を隠れみのにして、新しいICBMの発射実験の準備を進めているとの見方があった。

3月16日には、北朝鮮がICBMの発射実験に失敗したと、韓国軍が発表した。この情報を受けて、北朝鮮にとって最も重要な記念日である故・金日成主席(金正恩の祖父で北朝鮮建国の父)の生誕110周年記念日(4月15日)を前に、新たなICBM発射実験が行われるとの予測が現実味を帯び始めていた。

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