最新記事

ウクライナ情勢

「みんなトラウマになる」「この臆病者を見ろ」「どこの国境でも人種差別」...ウクライナ難民ルポ

SEEKING SANCTUARY

2022年3月18日(金)18時40分
ダイアン・ハリス、ファトマ・ハレド、ハレダ・ラーマン

220322P24_LPO_02.jpg

イルピンでロシア軍による砲撃のさなかに避難する市民(3月6日) EMANUELE SATOLLI-CONTRASTO

国境沿いには、押し寄せる人々に対応する仮設の施設ができた。救急医療と難民申請手続き用のテントも設置された。

ロイター通信によると、国境検問所には各国の軍隊が派遣され、難民の支援に当たっている。国の機関や支援団体に加え、地元の団体や個人のボランティアも、到着した人々の支援に力を尽くしている。

人道支援の情報サイト「レリーフウェブ」によると、ポーランド側の一時収容施設の近くには、寄付された物資を集めて配布する小屋がいくつもできた。わずか数日で、どの小屋も市民の提供してくれた食料や水、衣類、寝袋、靴、毛布、おむつ、生理用品などでいっぱいになった。

ドロフスク(ポーランド)の国境検問所前には、ウクライナ語で「どこへ行きたいですか?」と書いた段ボール板を掲げる地元の人が集まった。ポーランド国内に親戚がいるなら、その家まで車で送ってあげようという申し出だ。

同国メディカの検問所周辺では、カトリックの修道女が携帯電話用のバッテリーパックと充電ケーブルを配っていた。

現在、ロシアの爆撃や戦車の攻撃から逃れようとするウクライナ人への同情と共感は急速に高まっている。

しかし、こうした寛容な姿勢をいつまでも維持できるだろうか。

米ノースイースタン大学のセリーナ・パレク教授は、ウクライナの窮状をめぐる社会的な対話を継続できなければ、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンのシナリオどおりになってしまうと警告する。

「これで難民危機が起きたらプーチンの思うツボだ。彼の目的は欧米の民主主義を不安定にし、反動的な右派や独裁的指導者の台頭を促すことにありそうだから」とパレクは本誌に語った。「2015年の難民危機後の状況が再現されてしまう」

当時、シリアを中心に約130万人が紛争で荒廃した母国を離れ、安全なヨーロッパを目指した。そしてヨーロッパに押し寄せる難民の数は第2次大戦後最大となった。

当初は、難民の窮状を伝える映像に接した人々が同情し、支援したいという思いが高まった。

だが、時とともに人々の態度は一変した。シリアの惨状を伝える報道が少なくなると、今度は難民を問題視する声が上がった。

パレクによれば、右派の指導者はシリア難民がヨーロッパ諸国の経済的な負担になっていると吹聴し、宗教や文化の違いをことさらに強調した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中