ウクライナにハッカー30万人が加勢 メッセージアプリ通じ世界が連携
「IT Army of Ukraine(ウクライナIT軍)」のツイッターアカウント
<ウクライナ・デジタル変革省が立ち上げたメッセージグループに、同国の現状を変えたいと願う世界の人々が集結している>
デジタル世界の攻防が重要性を増したウクライナ侵攻で、ウクライナ側のIT戦略が際立っている。31歳の若さでウクライナ副首相とデジタル変革相を兼任するミハイロ・フョードロフ氏は、侵攻からわずか2日後、IT軍への参加を広く呼びかけた。
省として公式に開設した「IT Army of Ukraine(ウクライナIT軍)」のメッセージ・グループに、現在までに世界から約30万人が集まった。このグループを通じ、ロシアにサイバー攻撃を仕掛けるための具体的な指示が出されている。
グループにはIT技術者からアマチュアまで、使命感に駆られた30万人が世界から集う。彼らを結びつけているのは、正しいことを成し遂げたいという揺るぎない意志だ。
ウクライナ国内からも、ITの専門家が多数参加している。ウクライナはもともと世界のIT産業から業務を受託しており、優秀なエンジニアを多数擁する「東欧のシリコンバレー」とも呼ばれてきた。旧ソ連時代から科学技術が振興していたことに加え、比較的安価な人件費が海外の企業に好まれてきた背景がある。
法よりも人道的正義を
海外からも多くのボランティアがキーボード越しの加勢を申し出ており、同グループに集っている。スイスに住む10代若者もそのひとりだ。英ガーディアン紙に対し、「何か貢献したくて、ウクライナを助けるために自分の攻撃スキルを使えればと思ったんです」と語っている。「私はスイス出身ですが、ハッカーとして腕に覚えがあり、そしてウクライナの人々一人ひとりに胸を痛めています。ウクライナの人々に寄り添い、どうにか助けになりたいのです。」
この若者以外にも、ニューヨークの20代女性やリトアニアの30代ITスペシャリストなど、さまざまなバックグラウンドをもつ人々がボランティアでIT軍に加わった。いずれも共通して、自分にできる形でウクライナに貢献したいと考え、遠隔地からネットを通じた支援を決意している。豪公共放送のSBSは、オーストラリアやスペインからも参加者が出ていると報じた。
グループではロシアへのサイバー攻撃の指示が出されるほか、報道規制により侵攻の現実を理解していないロシアの人々にありのままの現状を伝える方策も話し合われている。また、チャットを通じてTVなど主要メディアが避けている生々しい映像が共有され、戦争犯罪の証拠として記録を蓄積している。
原始的だが参加しやすい攻撃手法
グループはまた、原始的だが効果の高いサイバー攻撃をロシアに対して多く仕掛けている。このところロシア政府や政府系メディアなどの複数のサイトがダウンしているが、こうした攻撃には有名なハッカー集団のアノニマスのほか、同メッセージ・グループに集う人々が関与している。
グループの主な手法は、許容量を超える大量のアクセスをサーバーに送りつけることでサービスをダウンさせる「DDoS攻撃」だ。インターネット黎明期から多用されてきた古典的な手法だが、それだけに安定して成果を出しやすい。