最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナの部品がないとロケットも作れず 「宇宙大国ロシア」はプーチンの幻想

2022年3月26日(土)13時30分
知野恵子(ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載
ロシアのプーチン大統領

2013年、ISSの宇宙飛行士との通話を行ったときのプーチン大統領 RIA Novosti - REUTERS

欧州のロケット打ち上げを次々に妨害

ウクライナ侵攻で経済制裁が強化される中、ロシアが宇宙での対抗姿勢を打ち出している。ロシアのロケットで打ち上げる予定だった欧州の衛星を事実上拒否したり、ロシアも含めて15カ国が参加する国際宇宙ステーション(ISS)での任務放棄やISS落下をほのめかしたり。着々と技術を蓄積する中国や、米スペースXなどの宇宙ベンチャーの躍進に、かつての宇宙先進国・ロシアは、焦りと怒りを募らせているように見える。

宇宙をめぐるロシアの恫喝が止まらない。

英国の衛星通信企業「ワンウェブ」の小型衛星36基が、3月5日にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地からロシアのロケットで打ち上げられる予定だったが、ロシアは英企業に難題をふっかけて事実上拒否。英企業は打ち上げ予定を取り消した。

ワンウェブには、日本のソフトバンクも出資しており、ロケットの機体には日本など出資国の国旗が描かれていた。ロシアの作業員がそれを白いカバーで覆い隠すという、あからさまな嫌がらせもした。

フランス領ギアナにある欧州の宇宙基地では、今春、欧州がロシアのロケットで測位衛星を打ち上げる予定だった。しかし、ロシアが作業者や技術者を一斉に引き上げたため、衛星の打ち上げは不透明な状態になった。

「ISSが地球に落下しかねない」と警告

宇宙飛行士が滞在するISSについても、ロシア国営宇宙開発企業「ロスコスモス」のロゴジン社長は「われわれとの協力を閉ざすなら、(ISSが)軌道を外れ地球に落下する事態を誰が救うのか」「地上か海に落下しかねない」などと繰り返しツイッターに投稿した。ロシアの飛行士がISSに滞在中であるにもかかわらずだ。ロシア製エンジンを使っている米企業の大型ロケットについても、納入停止をちらつかせた。

ロシアのこうした言動は外部からはなんとも不可解に見える。1957年に世界で初めて衛星「スプートニク1号」を打ち上げ、61年にガガーリン少佐が世界初の有人宇宙飛行に成功したロシアにとって、ロケットやISSなどの宇宙技術は、稼ぎのタネだ。

ロシアのロケットは長年の改良を重ねたこともあり性能は安定しているが、最先端の機能がなく「枯れた技術」と評される。ミサイルを転用したロケットも使っていた。このため価格が安く、日本の大学、ベンチャー企業など、海外勢もロシアのロケットを利用してきた。昨年の前澤友作さんのように、ロシアに大金を払って宇宙飛行やISS滞在をする人もいる。

だが、理不尽な恫喝を重ねることで、ロシアの宇宙技術の利用はリスクが大きいと世界に知らせてしまった。今後、お客は減るだろう。まさに自爆。ウクライナ侵攻をめぐって、プーチン大統領が何を考えているか分からないとさかんに指摘されているが、宇宙をめぐっても同じ状況になっている。

中国と米国に抜かれたロシアの行き詰まり

恫喝が奏功するには、「ロシアなしに世界の宇宙開発は成り立たない」という圧倒的な影響力をロシアが持っていることが必要だ。しかし、今はそうなっていない。

中国が膨大な国家予算を投じて着々と宇宙開発の力を蓄え、米スペースXなどの宇宙ベンチャーが次々と登場し、活躍する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中