ウクライナ侵攻は「第一次情報大戦」 市民も草の根で対抗
ロシアの政治的抑圧と強制労働についてのマルチメディア展示があるモスクワのthe Gulag History MuseumのGoogle Mapに掲載されていた写真 (C)Google Maps
<Twitterや公式IT部隊を活用するウクライナと、情報封鎖に走るロシア。実戦のみならず情報戦が峻烈となった「ハイブリッド戦争」で、対局的な動きが目立つ>
ウクライナをめぐる攻防では、サイバー空間での応酬がかつてないほどの影響力をもつようになった。両陣営の政府や軍需産業、そしてインフラ企業などへの攻撃が熾烈になり、オンラインは物理的な戦場に次ぐ第2の主戦場となっている。
今日では海外の多数のメディアがが、実戦場とサイバー空間にまたがる「ハイブリッド戦争」に発展したと捉えている。英ガーディアン紙は、これは「第一次情報大戦」であると指摘した。
ウクライナ側レジスタンスのサイバー部隊は今後、ロシア側の鉄道および電力網を麻痺させる計画だ。インフラを狙い撃ちにすることで、ウクライナ領内に侵攻するロシア部隊への武器補給を食い止める思惑がある。英インディペンデント紙などが報じた。
鉄道関係ではすでにベラルーシの反体制派ハッカー集団が、同国内の鉄道の運行システムをダウンさせている。ロシア軍が演習のため入国するのを阻止する目的だ。ハッカーグループは「我々は完全にウクライナ人の味方だ」との声明を発表している。
また、これまでに国際ハッカー集団「アノニマス」がロシア政府のサイトを乗っ取り、反戦メッセージを掲載している。これとは別のグループもロシアのEV充電ステーションを機能停止させ、ロシアのプーチン大統領を批判するメッセージを表示した。
ウクライナは公式IT部隊を発足 Twitterで海外から支援も
政府レベルでも、オンライン攻撃を重視する動きが活発だ。ウクライナのフョードロフ副大統領はTwitterで、IT部隊の創設を宣言した。ボランティアの技術者を募集したところ、IT技術者など有志3万5000人が応じ、メッセージアプリ「Telegram」の専用チャンネルを通じてタスクの割り当てを受けている。
フョードロフ氏はTwitterのメッセージを通じ、巨大IT企業の支援も取り付けてきた。スペースX社のイーロン・マスクCEOは氏の要請に応え、ネットの寸断されたウクライナで衛星通信の提供を始めた。他社もロシアでの各種サービスの提供停止などで追随している。
一方、サイバー攻撃はロシアのお家芸でもある。ロシアによるウクライナ政府および軍に対する攻撃は、侵攻後3日間で196%増加した。軍、国防省、銀行などが攻撃を受けている。英ガーディアン紙は、「この1週間で我々は、この戦争のいかに多くの部分がオンラインのさまざまな前線で争われているかを目撃してきた」と論じる。
これまでにもサイバー空間での攻防はシリア内戦などで一部展開されたが、今回の規模はこれを大きく上回るものだ。ニューヨーク・タイムズ紙は、ウクライナ侵攻ではすでに数百人単位のハッカーが両陣営の背後で動いていると述べ、「サーバー紛争の熾烈で予測不可能な展開を意味するものだ」と指摘している。
Googleマップを応用した草の根運動が広がる
個人で貢献しようというユーザーが多いのも、今回の特徴といえるだろう。Googleマップでは、レビュー機能を利用した情報戦がはじまった。ロシア各地の主要観光地のレビュー欄を開けば、レビューの形式を借りた反戦メッセージが表示される。あるレビューはロシア語で「料理はとても良かった! 残念なことにプーチンがウクライナを侵略したことで食欲が失せてしまった」と訴えている。