最新記事

ウクライナ侵攻

ウクライナ侵攻は「第一次情報大戦」 市民も草の根で対抗

2022年3月7日(月)18時25分
青葉やまと

ロシアでは現在、報道において「攻撃」「侵略」などの表現は禁じられ、「特別作戦」と呼称しなければならない。ロシア国民に実態を伝達する手段として、こうした国際的なサイトやアプリなどを通じた呼びかけが有力視されている。レビュー欄には、負傷し捕虜となったロシア兵の写真などの克明な写真もアップロードされ、現地の実情をまざまざと伝えている。

旅行情報サイト『トリップアドバイザー』上でも同様の動きがみられる。英スカイニュースは、アノニマスがこうしたレビュー行動を一般ユーザーに拡めたと報じている。Googleとトリップアドバイザーは事態を受け、ロシアとウクライナの施設に対するレビュー機能を現在一時的に停止している。




アプリのプッシュ通知を活用

ウクライナの首都キエフを拠点とする写真アプリ「Reface」は、民間企業でありながら情報戦に積極的に参加している。同アプリは通常、二人の人物の顔を入れ替えて表示するだけの純粋な写真加工アプリだ。ロシア国民に正しい状況を伝えたいと考えた開発陣は、プッシュ通知機能の活用を思い付いた。

開発側がプッシュ通知を送信すると、ロシア国内の200万人いる同アプリのユーザーに対し、「ロシアがウクライナに侵攻」との通知が表示された。アプリを開いたユーザーには、画像や動画などでより詳しい状況が表示されるしくみだ。アプリの政治利用には批判も起きたが、積極的な試みは注目を集め、アメリカのApp Storeでは7位に浮上している。

こうした試みの影響は未知数だが、新たなムーブメントとして専門家も注目している。ロシアのプロパガンダに詳しいデンマーク・コペンハーゲン大学のヴァレンティーナ・シャポヴァロヴァ博士研究員(メディア研究)は、ニュース専門局『フランス24』に対し、「しかしながら多くの一般の市民がボトムアップでプロパガンダに対抗し、次第にクリエイティブになってゆくのは、みていて非常に興味深いものです」と語っている。

第一次情報大戦

一般企業やボランティア技術者の参加により、情報戦は前例のない規模に発展している。英ジャーナリストのキャロル・カドワラード氏は、ガーディアン紙への寄稿記事において、今回のウクライナ情勢は「第一次情報大戦(the first Great Information War )」であると語っている。これまでロシアが有利に導いてきた情報戦の舞台だが、いまやウクライナのゼレンスキー大統領がリードを拡げていると氏は分析する。

ウクライナではスマホさえあれば、誰もが情報戦に参加可能だ。オープンソースの地図とデータベースが用意され、目撃したロシア戦車1台1台の情報や部隊の動きなどを有志たちが日々更新している。4400万人の国民誰もが戦局をリアルタイムに確認できるほか、こうして記録された敵軍の動きはウクライナ軍の作戦に即座に反映される。

isizaki20220307d.jpg


公開されている情報を収集し、新たな重大な情報を読み解く手法は、OSINT(オシント:Open Source INTelligence)と呼ばれる。従来から存在してきた手法だが、ウクライナでは史上初めてリアルタイムで重要な情報を提供している点で際立っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

次期米大統領専用機、納入再び遅延 当初予定から4年

ワールド

米南方軍司令官が退任、「麻薬密輸船」攻撃巡りヘグセ

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、米ハイテク株安を嫌気 5

ワールド

NATO事務総長の戦争準備発言は「無責任」、ロシア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中