【キエフ、ドネツク】ウクライナ市民の本音を聞く
2月16日「団結の日」の集会は意外に参加者が少なかった(ウクライナの首都キエフ) VALENTYN OGIRENKO-REUTERS
<ロシアの侵攻が近いと報じられる中、スーパーの棚には商品がそろい、花屋にはバレンタインデー用のブーケが並んでいた。交錯する悲観と楽観。なぜ市民の危機感は薄かったのか>
危機の中にあって、ウクライナ政府は2月16日を国民の「団結の日」と定めた。
「ロシアが16日にウクライナに侵攻する可能性がある」と米情報機関が警告したという報道を受け、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が講じた措置だ。
ところが、首都キエフの中心部で行われた集会に集まった市民は100人以下。「団結の日」を定めたのは愛国心を高揚させることが狙いだったが、市民の熱い思いはほとんど伝わってこなかった。
多くのウクライナ市民は戦争勃発の危機にもそれほど脅威を感じておらず、外国メディアが大きく取り上げた「団結の日」にも実は冷ややかな姿勢しか見せていなかった。
「『団結の日』は、大統領が望むほどには注目されていない。多くの人は、そんな日があることさえ知らない」と語るのはイルヤ・パフツヤ。修理工の彼は、首都キエフで開かれた小さな集会を遠巻きに眺めていた。
多くの国民と同じくパフツヤも、戦争勃発の脅威に動揺してはいない。
「(戦争が)起こるとは思わない。もちろん本当のところは分からないけれど」
ロシアのウクライナ侵攻がいつなのかが焦点になり、偽の情報が拡散されても、キエフの人々は普段どおりの生活を続けている。スーパーの棚には商品がそろい、花屋にはバレンタインデー用のブーケが並んだ。
それでも、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による威圧外交が一部のキエフ市民に打撃をもたらし始めていることは確かだ。
ロシアが軍を増強し続けていることで、心理的負担が増えていると漏らす人たちも出てきている。
「不安は募っている」と、カフェを営む23歳のカティア(プライバシー保護のためファーストネームのみ)は言う。
「友達との会話では、戦争のことに触れないようにしている。父は戦争が始まるものと思っていて、私に地元の村に帰ってこいと言う」
だが彼女は、最悪の事態が起きてもウクライナを去るつもりはないようだ。
「ここは私の国。私はこの国を愛している。それに、ほかに行く所なんてないし」
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