最新記事

ウクライナ危機

渦中のウクライナ大統領が「まだ大丈夫」と、アメリカに不満顔の理由

Kyiv's Domestic Worries

2022年2月14日(月)17時35分
ウラジスラフ・ダビドゾン(ジャーナリスト)

220222P36_UNA_02.jpg

東部ドネツク州の親ロシア派勢力地域近くで警備するウクライナ兵 GLEB GARANICH-REUTERS

だが、そこには親ロ勢力の武装解除や、国境管理のウクライナ政府への返還に加えて、戦争犯罪を犯していない親ロ勢力司令官を一切の罪に問わないことや、ウクライナ法に基づく住民投票の実施などが定められていた。

この地域はロシア系住民が多いため、住民投票を実施すれば、クリミアのように「ロシアへの再編希望」が過半数を占める恐れがある。そうなれば「住民の民主的選択を尊重する」という口実で、ロシアに強引に再編されかねない。

それにウクライナ国民の大多数にすれば、1万4000人以上の同胞を死に至らしめた反政府勢力の指導者を容赦する気には到底なれない。

ゼレンスキーは、この問題の解決を公約に掲げて2019年の大統領選に勝利した。

だが、自身も南東部のロシア語圏出身のため、1年目は、ロシア政府とひそかに交渉を重ねる一方で、自分の本気度を国民に証明することに終始した。

ウクライナ政府関係者や専門家の中には、バイデンと米外交筋がロシアとの対立激化の悪循環に陥っているとみる向きもある。

ゼレンスキー政権にとって、ミンスク合意履行をめぐる政治的に譲れない一線は世論で決まるが、今後の交渉次第ではしぶしぶ譲歩する可能性もあるという。

しかし過去1カ月のゼレンスキーの発言は一貫性に欠けている。

ロシアとの国境に近い東部の都市ハルキフが占領される恐れがあると危機感を示す一方、アメリカのこれまで以上に執拗な警告に対しては「キエフの街中をロシア軍の戦車が走っているわけではない」と一蹴した。

ウクライナの戦略としては妙に思えるかもしれない。だが、「同盟国」アメリカとのせめぎ合いは理解できる。

アメリカは外交的解決を望むだろうが、ロシアはNATOおよびアメリカに対する要求を高めることについて強気な姿勢を崩さない。そのため、ウクライナに譲歩させることはもちろん、膠着状態に陥っているミンスク合意を実施に移すことさえ、簡単にはいかないはずだ。

「ゼレンスキーは2度、ロシアへの譲歩をにおわせた。まずミンスク合意履行で『シュタインマイヤー案』を受け入れること。次にウクライナ東部のロシア占領地域でロシアの傀儡指導者の役割に関してだ。だが、いずれも世論の猛反発で方針転換せざるを得なかった」とジョン・ハーブスト元駐ウクライナ米大使は指摘する。

国民の反発をなだめつつ、同盟国の顔をつぶさずに敵の強硬化を防ぐというのは難しい綱渡りだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中