渦中のウクライナ大統領が「まだ大丈夫」と、アメリカに不満顔の理由
Kyiv's Domestic Worries
緊張が高まるなかでゼレンスキーは国内世論と外圧の板挟み状態に GLEB GARANICHーREUTERS
<ロシアの侵攻は間近だとバイデン政権は声高に警告するが、支援を受ける当のゼレンスキー大統領は同盟国と異なるスタンスを取っている>
ロシアとウクライナの緊張関係が急速に悪化し始めて3カ月余り。ロシアは今も、ウクライナとの国境の北・東・南の3面に配置した兵力を増強し続けている。
いくらなんでも北京冬季五輪の閉幕までは、軍事侵攻はないはずだと、ウクライナ政府と欧米情報機関の一部はみる。
だが、2014年から続くロシアによるウクライナ東部とクリミア半島への侵攻は、いつ大規模な戦争に発展しても不思議ではない。
そんな警戒論を誰よりも強く発してきたのが、アメリカだ。
確かにソーシャルメディアには、ウクライナ国境に向かうロシアの大型軍事車両の動画が次々投稿されているし、ウクライナの北西部に位置し、強硬な親ロ政権が存在するベラルーシは、2月中に大規模な軍事演習を予定している。
だが興味深いことに、当事者であるウクライナ政府は、アメリカなどの同盟国と異なるスタンスを取っている。
ウクライナにとって、こうした戦争ありきの主張は不要に事を荒立てるものであり、既に壊滅状態にある国内経済にさらなる大打撃を与える恐れがある。
だから、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、過激化する議論を沈静化しようとしてきた。
ゼレンスキーが今回の危機について、初めて国民に向けて演説をしたのは、1月19日にアントニー・ブリンケン米国務長官と会談した後のこと。
しかも、ロシアの大規模な攻撃が迫っているというジョー・バイデン米大統領の発言について、「キエフに住んでいるのは私だ」と述べて、バイデンら米政府幹部は現状を分かっていないと示唆した。
ウクライナの情報機関も、同じように冷静な対応を呼び掛けている。
国家安全保障防衛会議(NSDC)のオレクシー・ダニーロフ長官は最近、人気トーク番組で、確かに懸念すべき深刻な理由は存在するが、パニックを起こすほどではないと説明した。
ダニーロフはAP通信にも、「全世界が気付くような準備には、3~7日かかるだろう。まだその状況にはない。われわれは現状を明確に把握しており、それに対して粛々と準備を進めている」と語った。
ウクライナ市民の間では、アメリカが「シュタインマイヤー案」の受け入れを強いている(と彼らは感じている)ことへの警戒感もある。
不平等合意への不信感
シュタインマイヤー案とは、2014年に調印された「ミンスク和平合意」に関連して、フランクワルター・シュタインマイヤー独外相(現大統領)が提案した実施プロセスだ。
親ロシア武装勢力の支配下にある東部ドンバス地方の扱いについて、ロシアとウクライナが取るべき措置を示した。