アメリカを「金持ちの金持ちによる金持ちのための国」にした負の連鎖
AMERICA’S STRUGGLE AT HOME
貧しい人々を苦しめる階級闘争は最近の現象ではない。本格的に始まったのは1970年代初頭。以降40年間にわたり、残酷なまでの影響を社会に及ぼしてきた。
大恐慌のさなかの33年にフランクリン・ルーズベルト大統領が就任してから60年代に至る約30年間のアメリカは、第2次大戦後の西欧諸国が社会民主主義国家になっていったのと同様の道をたどった。所得格差は縮小し、アフリカ系アメリカ人や女性などの社会集団が経済や政治の世界に進出した。
それに続いて起きたのが金持ちの逆襲だ。企業弁護士だったルイス・パウエルは71年、環境規制や労働者の権利保護、公平な税制の強化という社会民主主義的な流れをひっくり返す戦略を説いた。パウエルは翌72年、リチャード・ニクソン大統領の指名によって連邦最高裁判所判事に就任。この後、最高裁は言論の自由を根拠に、企業から流入する政治資金への縛りを次々と解いていく。
81年に大統領に就任したロナルド・レーガンは富裕層向けの減税や労働組合への攻撃、環境規制の緩和を行った。この流れは今も変わっていない。
その結果、アメリカは経済的公平や福祉、環境保護といった分野で、欧州とは大きく異なる道をたどることになった。欧州が社会民主主義と持続可能な発展を目指してきたのに対し、アメリカが突き進んだのは少数の人間による腐敗した政治、拡大し続ける貧富の差、環境問題の軽視、そして気候変動の放置といった道だった。
数字をいくつか見るだけで、違いは明らかだ。EU加盟国の税収のGDP比は平均して45%程度だが、アメリカでは約31%。欧州諸国の政府は国民皆保険制度や高等教育や子育て支援、職業訓練に公的資金を拠出できるのに、アメリカ政府はそれらのサービスを国民にきちんと提供できない。
世界幸福度ランキングでも欧州諸国が軒並み上位を占め、アメリカは実に19位。平均寿命(19年)はEUの81.1歳に対し、アメリカは78.8歳だ(80年にはアメリカ人のほうが長生きだった)。
さらに19 年のデータで、上位1%の金持ち世帯の所得が総所得に占める割合は西欧では約11%だったが、アメリカは18.8%だった。同じ年、国民1人当たりの二酸化炭素排出量はアメリカが16.1トンだったのに対し、EUは8.3トンだった。
そこにある危険な未来
つまりアメリカは「金持ちの金持ちによる金持ちのための国」に、気候変動が他の国々に与える悪影響の政治的な責任も果たさない国になったわけだ。その結果、社会の分断が進み、薬物常用による死や自殺など「絶望による死」が増え、コロナ前の時点でも平均寿命を縮め、鬱を患う人の割合は上昇している。
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