アメリカを「金持ちの金持ちによる金持ちのための国」にした負の連鎖
AMERICA’S STRUGGLE AT HOME
議会の抵抗もあって十分な成果を上げらないバイデンを支持者はどう見るのか Kevin Lamarque-REUTERS
<金持ちと大企業を優遇し、公平な社会づくりをなおざりにしてきたアメリカ──そのツケを払うかどうかで未来は決まる>
米大統領選でジョー・バイデンがドナルド・トランプに僅差で勝利してから1年余り。今もアメリカは、先の見えない不安定な状態にある。
今後の米政治がどう転ぶか、可能性はいくらでも考えられる。バイデンが目指す経済的・政治的改革が徐々に進む可能性もあれば、トランプが2021年1月に画策したように、選挙や憲法に基づく統治がひっくり返される可能性もある。
アメリカの中核を蝕(むしば)む深刻な病こそ、この「トランプ運動」を招いた要因だ。しかし、その正体を正確に診断するのは簡単ではない。
それは、アメリカを人種や宗教、イデオロギーで分断する文化戦争なのか。過去に例のない富や権力の格差の拡大なのか。それともアメリカが自ら始め、主導してきた戦争が大失敗に終わり、一方で中国が台頭するなかで世界におけるアメリカの影響力が弱まり、国民の不満や国内の混乱を招いていることか。
私の見るところ、最も深刻な危機は政治に、つまりアメリカの政治システムが合衆国憲法の定める「一般の福祉の増進」をなおざりにしてきたことに端を発している。
過去40年の間にアメリカ政治は、中央政界とその周囲の人々が自分たちの都合だけで進めるものになってしまった。大企業の雇ったロビイストと金持ちの言い分ばかりが通り、国民の大多数を占める庶民は犠牲になった。
投資家のウォーレン・バフェットは06年に問題の核心を突く発言をしている。「階級闘争は存在する。それは確かだ。だが闘争を仕掛けているのも勝利を収めているのも、私の属する階級、つまり金持ち階級だ」
闘争の主戦場となっているのは首都ワシントン、尖兵を務めるのは企業の雇ったロビイストたちだ。武器は札束。連邦政府や議会向けのロビー費用は20年の数字で推計35億ドルに上り、選挙のための政治献金は同年の連邦選挙だけで推計144億ドルに達した。戦争をあおるプロパガンダを担当するのは、大富豪ルパート・マードック率いるメディア帝国だ。
西欧との悲しい「差異」
約2500年前、秩序的欠陥のために良い政府が悪い政府に変わる可能性があると説いたのは、ギリシャの哲学者アリストテレスだった。米政治も、企業のロビー活動や富豪からの選挙献金という「腐敗」を見直さない限り、同様の災厄に見舞われかねない。
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