ブタの心臓を受けた男に傷害の前科──「もっとふさわしい人にあげて欲しかった」と、被害者の遺族は言う
Exclusive: Pig Heart Surgeon Responds to Patient's Prison Sentence
ベネット(右)の手術成功に被害者の遺族は複雑な心境を吐露 University of Maryland School of Medicine (UMSOM)/REUTER
<手術を担当したグリフィス医師は本誌の取材に対し、患者を選ぶ際に前科を調べるのは「倫理に反する」と言うが、今は亡き被害者と遺族の思いはどうか。医学の進歩がまた難問を突きつける>
世界で初めてブタの心臓移植を受けた患者に、犯罪歴があったことが明らかになった問題で、手術を担当したバートリー・グリフィス医師は、犯罪歴を理由に移植の順番が後回しにされるべきではないとの考えを表明した。
心臓移植を受けたデービッド・ベネットは、1988年に男性を刃物で7回刺した罪で有罪評決を受けており、被害者の家族は、もっと「助かるべき患者」に心臓が提供されて欲しかったと述べた。だがグリフィスによれば、誰がどのような治療を受けるかを決める上で、犯罪歴が影響を及ぼすことはなく、ベネットが移植の候補に挙がった時にも、彼が収監されていた過去が議論されることはなかったという。
グリフィスは本誌に宛てた文章の中で、「彼の逮捕歴については何も知らなかったから、本人にもそれについて尋ねていない」と述べ、さらにこう続けた。「我々は患者の前科を調べることはない。それは倫理に反することだと思う」
彼はまた、移植に携わった人のうち、「もう何年も前に起きたこの問題について知っていた人」は一人もいなかったと確信しているとも語った。
「死にたくない」と手術を決断
グリフィスが初めてベネットに会ったのは、2001年。ベネットが人工心肺装置につながれて集中治療室(ICU)に入った時だった。人工心肺装置がなければ、57歳のベネットは翌朝までもたなかった可能性が高いと、グリフィスは本誌に宛てた文章の中で述べた。
ベネットにとって最善の治療法は心臓移植だったが、診療予約をすっぽかすなどの不服従行為が過去があったため、移植適応の条件を満たしていなかった。だがグリフィスは、心臓移植以外にベネットが助かる道はないと判断し、遺伝子を改変したブタの心臓を使う可能性を探り始めた。
グリフィスは2021年12月中旬に、ブタの心臓を移植に使うことをベネットに提案。ベネットは人間の心臓の方がいいと述べたものの、最終的にブタの心臓を使う計画を進めることを決断した。
グリフィスは本誌宛ての文章の中で、次のように述べた。「助かる見込みがどれぐらいあるのかと聞かれ、私は(移植で延命できる時間は)1日かもしれないし、1週間、1カ月、あるいは1年かもしれないと答えた。私たちにも何も分からず、どのようなリスクがあるのかも説明できなかった。だが彼は『死にたくないから、やってみよう。もし私が死んでも、誰かが何らかの教訓を得られるだろう』と言った」
手術は1月7日に行われ、既に1週間が経過。グリフィスは、ベネットの体がブタの心臓に拒絶反応を示すことはないだろうとみており、ベネットが今週中にも車椅子で動けるようになることを期待している。